昭和五十八年、当時の新聞の朝刊には、ほとんど毎朝のようにサラ金業者の借金取り立てを苦にして一家心中した家族の記事が載っていた。サラ金業者は深刻な社会問題となるほどの凄惨極まりない取り立てを行っていた。支払いが遅れると例外なく彼らは毎日やってきてしつこく恫喝する。
初めてウチに彼らがきた時は私だってものすごく怖かった。
サラ金の男たちは毎日午後四時ごろにやってくる。父さんは「いないって言っておけ」と二階の部屋に入ってしまい、絶対にもう出てこない。
男達はピンポンピンポンピンポンとドアのチャイムを繰り返し鳴らし、ドンドンドンドンドンドン! 激しくドアを叩きながら大声で叫ぶ。
「カネシゲさぁんっ! いるのはわかってるんですよ! 誠意見せてもらえませんかねぇ。出てきて話しましょうよ! オレらも手ぶらじゃ帰れねぇんだよ!」
あまりの煩さに近所から苦情が出るのが心配で、仕方なく私はドアを開ける。
「すみません、父は外出しておりまして」
「アンタ、カネシゲの娘さん? お父さん、何時に帰ってくるの?」
「わかりません」
などとやりとりすると次の彼らのセリフは決まっている。彼らは私の腕をつかみ、
「カネシゲ! 良い娘さんいるじゃん! 娘を風呂屋に売り飛ばすぞ! カネシゲ! カーネーシーゲ! そこにいるのわかってんだぞ! 出て来いよ!」と、もちろんなる。
私が腕をつかまれて売春をするような風呂屋に売るとか言われても「あいつらは不当な利息を取っている業者だから、自分らが違法行為をしてるって、わかってるんだ。お前を風呂屋に売るなんてどうせできやしないよ」って父さんはちゃんと教えてくれていた。
二度目ぐらいまでは死にそうに怖かったけれど、三度目には彼らが本当は私を連れて行く気なんてないとわかってきた。
それからは「きったない手で気安く触るんじゃないよ! 腕つかむなって! 痛いんだよっ! 暴行で警察呼ぶぞ! やりたきゃどこでも売り飛ばしてみろよ! やれるもんならやってみな! ハッタリばっか言って脅してんじゃねぇよ! バーカ!」って、ちゃんと言って彼らの手を振り払えるようになった。
〈人間って慣れるもんなんだよなあ〉
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