【前回の記事を読む】友達にいい顔をしたかった兄は「良いモノ見せてやる」と、何度も友達を家に呼んだ。標的は、私と妹だった。部屋に閉じ込められ…
第二章 自立
父さんは私たち三人兄妹を何かにつけては比較した。そして、いつも長男のサトシをめちゃくちゃ馬鹿にして叱った。
サトシが十歳になるかならないか、私は幼稚園のあたり、タエはほんの二歳の幼児ぐらいの時から、父さんは毎晩のように晩酌をしながら「英語の授業」と称して、テーブルに置いてあるものをひとつずつ英単語になおして教えはじめた。
「いいか? 箸はチョップスティック。な。皿はディッシュ。な。おわんがボウル、酒はリカー、アルコールとも言うな。それから机はテーブルとかデスク……」
父さんは自慢げに二十個ぐらい、たて続けに英単語を私たちに教える。そんなもの、いっぺんに覚えられるはずがないじゃない?
しかし、意地の悪い父さんは必ずその後に私たちをテストするに決まっていた。
サトシはよく言えば真面目、悪く言えば要領が悪いので、いつも父さんが教えることを全部覚えようとする。
私はそれをとても無理だと判断していたので、父さんが初めに言った三つだけを完全に記憶してあとの十七個は捨てていた。聞いているふりをして最初の三個だけを頭の中で繰り返して、意地悪な父さんがどうせ覚えていないだろうと最初の三個を質問してくることに全力で備えていた。
父さんはテーブルにある物を二十個程度ひと通り英単語にすると決まってこう聞いた。
「で、箸は英語でなんだった? サトシ?」