土曜日、すぐに母の家に行き、お金の動きを調べた。

通帳の残高は数百円だった。元々貯蓄は多くなかったとはいえ、ここまで減っていることは過去の記帳残高を見てもなかった。

次はレシートや病院の領収書等をかき集めた。母の財布、机の上や棚、そしてゴミ箱。それらを見ても想定を超えるようなお金の使い道は見当たらなかった。母に聞いても電話での答えと変わらない。

そして妻が何かを思い出したように二階に駆け上がり、小さな金庫を抱えて降りてきた。

「ここに、お父さんが残してくれたお金があったんだけど。もしもの時に充てるようにって言われてたお金が……」

亡き父の最後のお金にまで手をつけた母への怒りと悲しみが混濁し、震える妻。

「え? 私、知らないよ?」

妻の問いもむなしく、平然と答える母。

「ここのお金はお母さんと私以外知ってる人いないじゃん……」

最後の妻の声はやり場のない怒りを含み、母にというより空に向かって独り言のように発された。

出費額がおかしいのは明らかだ。お金を捨ててしまっているか、銀行口座の履歴に残らない、何らかの詐欺に遭っている可能性がある。

母はついに、掃除や料理だけでなくお金の管理もできなくなってしまった。もう母の一人暮らしは不可能だ。

妻は母に現実的な選択を迫った。

「お金の管理までできないとなると、もう一人暮らしは無理だよ」

「なんでよ。今までも私一人でやってきたんだから問題ないわよ」

母は、いかにも自分一人で生活できているという口ぶりだ。

「お母さん、ここまで私たちがフォローしてたから何とかなってたんだよ。だけどお金の管理ができないとなると……もうどうしようもないよ」

「どうしようもなくないわよ、私一人でやってきたんだから」

「今まで自分の力だけでやってこれたと本当に思ってるの?」

「別に私はあんたたちに何もお願いしてないじゃない!」

母は一人で生活できると主張を変えず、怒り出して自分の部屋に閉じこもってしまった。

妻は苦しんだ。父を亡くしてからの二年間で母の「できないこと」が日に日に積み上がった。

人生七十年以上かけて培ってきた生活力がたった二年で失われた。

しかも外見は変わらずに、中身は現実を直視せず自分本位な発言しかできなくなってしまった。

頭では認知症によるものだと理解に努めることはできる。しかし、心はそう簡単には受け入れられるものではない。

なぜなら、他人ではなく母親だからだ。

 

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