草木も眠る丑三つ時、牛若は娘を連れて宴の終わった屋敷を後にした。
娘は牛若から事の次第を聞かされ、牛若の志に心打たれた。
「あなた様にお仕えいたします」「かたじけない」
おかげで牛若は屋敷から楽々抜け出すことができたのだった。
翌日娘と共に『虎の巻』が失せ、騙されたことを悟った鬼一法眼は、憤怒にかられ、みるみるうちに鬼に変じていた。やはり本性は鬼だったということだ。
手下とともに鞍馬の山へ攻め上ったが、待ち受けていた牛若と天狗らにあっけなく討ち取られてしまった。
『虎の巻』を手にした牛若は、触れた時から力がみなぎるのを感じていた。これはほかの者が手を触れようものなら何らかの危害を被る代物だった。火傷くらいで済めばよし。人によっては手に取ることもかなわず吹き飛ばされてしまうもの。盗んだ鬼一法眼でさえ呪いを何重にもかけた壺の中に入れておかなければ、手元に置いてはおけなかったのだ。
「やはりこれは、そなたが持つべきものであったのだ」
大天狗は驚嘆した。
これにより、その後牛若丸は「義経」と名乗り、神がかりのような戦術で連戦連勝する姿を多くの者に見せたのは言うまでもない。
また牛若は兄との確執により非業の死を遂げたといわれたが、鞍馬の大天狗の暗躍と、その手に光り輝く巻物により密かに逃げ延びたとも伝わっている。
宝はそれに相応しい者が持ってこそというお話。これにておしまい。
参考資料 『鬼と日本人』小松和彦 角川ソフィア文庫
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