【前回の記事を読む】筋肉は休息中に修復され、睡眠中に肉体は回復する…だが「なぜ眠る必要があるのか」は、現代の脳科学でも説明しきれていないとされ……

第一部 基本編

生命の発生

ただし、宇宙が生命を生み出したというと宇宙自体を神秘的存在に考えたり、また生命を特別扱いしてそれを宇宙の目的のように解釈される恐れがあるので注意が必要である。

また、ここでは地球上における生命の発生について述べるが、地球という惑星を特別視することはできない。

生命の起源に関しては地球以外で発生したものが彗星や隕石などによって地球に運ばれたかもしれないという説があるが(パンスペルミア説)、最初の発生そのものは場所には関係せず同じようなプロセスを踏むと思われる。

生命は宇宙によって生み出されたが、これには無数ともいえる多くの幸運な事情も関与していた。総じてみれば、生命の発生は幸運な全くの偶然だったといえる。さらに人類のような知的動物の登場はS・J・グールド(Stephen Jay Gould)1の表現を借りればちょっとした事故のような出来事であった。

これは人によっては打ちのめされるような事実である。なぜならこのことが意味するのは、人間にとって「生きる」ということは存続し子孫を残すということ以外に格別な意味も目的も存在しないということだからである。また地球以外に知的高等生物が存在している可能性はほとんどないということもわかる。

「主体」の必要性

生命の定義として通常生物学でよく挙げられるものは、(1)外界と膜で仕切られている (2)エネルギー・物質代謝がある (3)自己複製するという三つであるが、いずれも物質としての性質に基づく特徴である。だが最後の(3)は「自己」というものをすでに前提にしている。

この「自己」は生命体が全体として活動していることを示すもので、この「自己」が成長して数十億年経過して本格的な「主体」というのが発生するようになったのである。

ところで、生命の本質さらには人間の本質に関連して物質的規定では満足しなかった多くの哲学者・思想家・学者がいた。

彼らの多くは、生命や人間の本質を心の働きや内面の意識、あるいは魂のような目に見えない側面にあると考え、そうしたものは物質からは生まれないとした。

また主観性の物質的起源を肯定する人たちもいたが(古くはデモクリトス、ルクレティウスなど)物質から生命発生(主体の発生)の合理的で具体的プロセスを示すことができていないと思われる。

現代では科学の進歩によりこのことがかなりの程度可能になっている。私も生命の本質として「主体」(agent)という「主観的構築物」が必要であると考えているが、この「主体」は突如完成した形で登場したのではなく、萌芽的なものから徐々に成長していったという見方をしている。これについては後ほど詳述することになる。