【前回の記事を読む】未成年を雇っている風俗店を、若い巡査が突き止めた。刑事は「なんでわかったんだ? まさかおまえ…」とニヤリと笑い……
第3章 伝説の男
1 幽霊伝説 結城、大食いする
強気な洞口の顔色を見ながら古尾がおずおずと言う。
「本町のハコ長が椿島に飛ばされたの、あいつの仕業だって噂ですよ」
「は? あの陰キャにそんなことできる訳ねえだろ!」
馬鹿馬鹿しいと言いたげな洞口に、古尾は慌てて愛想笑いを浮かべながら、
「あくまで噂ですよ、う、わ、さ。あ、ビールがないですね……」
などと言って店員に注文をしていると、古尾の尻馬に乗って立場もしゃべり出す。
「警察学校でもいろいろあったんですよ」
「なんだ、それ?」
洞口は興味を示したが、話の中心を立場に取られそうになった古尾は鬱陶しそうに、
「幽霊の話なんかどうでもいいじゃないですか。それより今度の合コンセット完了ですよ」
三人でまた……と意味深にそしていやらしい笑いを浮かべていると、いきなり衝立の向こうの隣席から、なんとも言えない陰気な声が聞こえる。
「楽しそうでありますねえ……」
えっ、と三人が話を止めて顔を上げると、衝立の向こうから目から上だけ出して結城が覗いている。古尾は思わず持っていた箸を取り落とす。結城は三人の顔を見比べ、ゆるゆると三人の前にやってきて、
「交通課の青木繁子さんとお付き合いなされているのに、合コンとはいかがなものでありましょう……」
そう帽子の陰から古尾の顔を覗き込んで非難めいた口調で言う。あっと声にならない声を上げて古尾は口をぱくぱくさせた。立場は大げさに驚いて見せる。
「おまえ、あの青木と付き合ってんのか?」
青木繁子とは結城たちと同期の交通課巡査でどんな違反者もばんばん取り締まる、空手三段のスーパーレディーである。
「いくら気の強い女が好みだっていっても、ありゃあ……」
渋面を作る立場に向かって結城は無表情なままねっちりと言う。
「立場くんは久々に彼女さんができて喜んでおられたのでは? この間もたっぷりとお惚気を聞かされましたが……」
立場がうう、と言葉に詰まっていると、結城は再び古尾に顔を向け、感情の無い顔と声で言う。
「不実な人は大嫌いだと青木さんがおっしゃっていたのであります」
なにを、と立ち上がりかけた古尾を洞口はまあまあ、と先輩の貫禄でもって宥め、帰ろうとする結城の袖口をむんずと摑み、
「おまえ、まあここに座れよ。一緒に飲もうぜ、奢るからよ」
そう普段言わない気前のいいことを言って誘う。あっと小さく叫んで古尾と立場は洞口を見ながら激しく首を左右に振る。しかし洞口は一杯入っていて気が大きくなっているらしい。