【前回の記事を読む】若者5人が取調室で震えながら「ホームレスにやられた」と供述。容疑者の事情を聞くほど“犯人は別にいる”可能性が見え始めて……
第2章 陰と陽
2 ホームレスたちとの出会い
彼らは毎日のように町中を廻って空き缶や段ボール等を集めている。その時に小耳に挟んだいろんな話を結城に聞かせてくれた。
つまらない世間話に聞こえるかもしれないが、これも貴重な情報源なのだ。彼らのネットワークは意外に広く、最近はスマホの普及も相まって、あれこれよく教えてくれるのだ。
だが、パトロールの途中、ホームレスたちと触れ合って交番に帰ってくると、いつも洞口に臭いと文句を言われる。なのである日のこと、いつものようにたらふく文句を言う洞口の顔を結城は帽子の下から覗き込みながら、
「先輩はいい匂いがするのであります。業務用の石鹼のような……」
そう意味深に言う。洞口がぎょっとして目を泳がせていると、結城が黙ったままにたにたしているので、洞口は慌てて自分の臭いを嗅ぎながら強く否定する。
「そんなとこ、行くわけねえだろうが!」
「そんなとこ……?」
小さく呟く結城に洞口は開き直る。
「おまえ、風俗も行ったことねえのかよ」
風俗ねえ……、と結城は天井を見上げて、ああ、と急に思い出したように言う。
「ソープランドならあるのであります」
至極当然のように、言いにくいことをはっきり言う結城に洞口はたまげて、
「このむっつりスケベが!」
と、怒鳴ったが、珍しく結城が面白そうにへへへ、と声を出して笑うので、洞口ははあっ!?と結城を睨みつけて、ぼろくそに結城を貶す。
「また噓つきやがって! そんなとこに行く度胸なんぞ、おまえにあるか!」
噓ではない。この間、コーさんから聞いた情報だ。
「隣町のソープはやたら若い子が働いとる。朝早く段ボールを集めとったら、どう見ても高校生風の小娘が出てきよった」
結城はすぐにその店の前で張り込みを開始する。するとコーさんの言う通り、いかにもなギャルが数人出てきたのである。で、すぐに生活安全課の地野刑事に連絡した。
地野は幽霊が何しに来たと胡散臭げだったが、結城の隠し撮りした映像を見て、なんだこりゃとすぐに内偵を進め、ガサ入れを行ったのである。結城は地野に言われて、そのガサ入れに同行したのである。
思わぬ手柄を立てることができて、地野は機嫌よく結城に尋ねる。
「なんでこの店が未成年を雇ってるってわかったんだ? まさかおまえ……」
にやりと笑って茶化してくる地野だが、それに関して結城は全く無反応で、
「本官にはいろいろな友人がいるのであります」
としか言わないのである。
地野は(こいつ、まだ若い巡査なのにエスを飼っているのか?)と思ったが、すぐにまさか、とその考えを打ち消した。
結城はただ歩き回るだけでなく、人々の話を聞き、困っている人の相談にも乗るし手も貸した。だから町の人たちは皆、最初は陰気なお巡りさんだのキモお巡りなどと言っていたのが、今ではシャイなだけでいいお巡りさんだと思っている。
そのせいだろう、こちらが訊かなくてもいろいろな話をしてくる者が増えた。その中にはコーさんの話のように貴重な情報もある。エスを飼っているわけではない。
パトロールをまめに行い、非番や公休日に皆が寝たり遊んだりしている間も結城は情報を集めている。そして情報をくれる者たちの事を結城は『友達』と呼んでいる。