【前回の記事を読む】河川敷で寝ていたホームレスに、ロケット花火が打ち込まれた。彼は慌てて外へ飛び出すと、複数人の若者が待ち伏せていたかのように……

第2章 陰と陽

2 ホームレスたちとの出会い

同じ頃、取調室では高校生くらいの若者たち五人が取り調べを受けている。まだ幼さの抜けきらないその若者たちはぶるぶる震え、中には半べそをかいている者もいる。

その様子があまりに変なので、刑事たちが不審そうに何か言おうとすると、いきなり一番年下らしい少年がわーっと声を上げて泣き出す。その隣に座っていたチリチリ髪の少年も青い顔で言う。

「あんな強ぇホームレス、見たことねえ。あいつにやられてから右腕が上がんねえ」

俺も、俺もと皆、同じことを言うので、

「おまえら、示し合わせてるんじゃないぞ!」

刑事が大声を出すと、ほんとだって!と少年たちの口が揃ったところでその刑事は会議室に行き、

「この中であのガキどもをシメた奴はいるか?」

と、そこの異臭に顔をしかめながら訊く。刑事の問いにホームレスたちは顔を見合わせ、ワタさんが訳わからんと言いたげに返答する。

「俺たちの中にゃあ、そんな強い奴はいないぜ」

結局、その若者たちを叩きのめしたのは誰なのか分からずじまいだったのだが、若者たちがびびっていたのにも訳がある。

地面にしこたま叩き付けられた後、五人とも背中を拳で叩かれたと思ったら、それから腕が上がらなくなった。そしてその自分たちを叩きのめした男は地の底から湧くような声で言うのである。

「今度こんな真似したらただじゃおかねえ。その腕、治してほしかったら、揃って詫び入れにくるんだな」

そして誰か通報したのか、パトカーのサイレンが聞こえるとさっと風のように去っていったのである。

警察署できついお灸をすえられた後、本当に五人は謝りに来た。

「すみません。もうあんなことしませんから、腕を治してください」

泣くように言う五人に皆きょとんとしていたが、タマさんが五人を手招きして全員の背中を拳で強くたたいて回って言った。

「もうあんなこと、せんでな。おらたち、ここで静かに暮らしてえだけなんだ」

タマさんの言葉に五人の若者全員、うんうんと頷き、

「おっさん、強ぇんだな……」

と、恐ろしそうに振り返りながら帰っていった。

タマさんははてぇ?とぼんやりその背中を見送っていたが、一斉に他のホームレスたちにどういうことだと問い詰められる。タマさんはまた尻を掻きながら自分の小屋の入り口を指さし、

「あの後朝起きたら小屋の入り口にメモが挟まってて、もしあの子たちが謝りに来たら、背中のここんとこ……」

そう言いながらポケットからそのメモを取り出し、

「この背中の印のついてるとこを強めにグーで叩いてやれと書いてたからその通りにしただけだで」

と、へらへらしている。

ホームレスたちは綺麗な字で書かれたそのメモをしげしげと見て、

「それでおまえがあの強い奴って思われたのか」

と、タマさんのぼけーっとした顔を見て一斉に笑った。その後、その辺りの悪ガキたちの間では、西の河川敷のホームレスに手ぇ出すな。酷い目に遭うぞ、という噂が広まったのである。