数日後、またいつものようにパトロールにやって来た結城が、
「この間は大変だったそうで……」
そう声を掛けるとコーさんが渋面を作る。
「全く質の悪いガキどもじゃ。しかしこれで懲りただろう。あれからぷつっと嫌がらせもなくなったしのう」
うんうんと一人頷くコーさんに頷き返し、その場を去っていく結城をタマさんが追いかけてきて、間延びした声で話し掛ける。
「お巡りさんよう」
結城が立ち止まって振り返ると、タマさんはへらへらしながら言う。
「あれ、あんただろ」
結城が俯いて黙っていると、タマさんは結城のそばに近寄って、
「ガキどもを投げ飛ばしたのあんただろ」
そう言いながら鼻をひくつかせる。さあ、と、とぼける結城にタマさんはキキッと妙な笑い方をして、
「おらたちを助けてくれた人とあんた、同じ匂いがする。こう、花みてえな」
鼻を鳴らしながら、タマさんは結城の匂いを嗅ぎ回る。花のような匂い。それはポプリ……。結城はふと目を伏せる。タマさんは結城の思いなど知る由もなく、
「今まであんたみたいにおらたちのためになんかしてくれる人なんていなかっただ。おら、嬉しかったんだあ」
そう言って子供のようにスキップして帰るタマさんの背中を見ながら、結城はにっと笑って呟く。
「タマさん……。それは本官の下着の匂いであります」
あの強い人がいつもここに来るお巡りだと聞いて皆、目をむいて驚く。
「おらの鼻に間違いはねえ」
自信たっぷりに言うタマさんに皆は顔を見合わせたが、
「まあ、鼻のきくタマさんが言うんだから間違いねえだろ」
そう皆、納得したのである。
自分たちを助けてくれた人の正体をタマさんから聞いたホームレスたちの結城に対する態度は大きく変わった。
今まで結城の姿を見かけると小屋に入ってしまっていたのに、わざわざ外に出てきて声を掛けるようになった。そして結城も休日になると時々、手作りの料理と酒を持っていってホームレス達と談笑した。
次回更新は10月3日(土)、7時の予定です。
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