結城を横に座らせて、洞口はさっき立場が言いかけた警察学校でのことをいろいろ訊こうとしたが、それを遮るように結城は店員呼び出しブザーを押して嬉しそうに言った。

「今まで持って来られたのと同じものをすべてお願いするのであります」

はーい、喜んで!と、にこにこ顔の店員を古尾は渋面を作って見送り、目を剥いている洞口の顔色を窺い、

「おまえ、少しは遠慮しろ」

と非難する。

「は、これでも気を使っているのでありますが?」

笑うでもなく相変わらず陰気に俯いている結城に、古尾と立場は酒が不味くなると思っているのだが、先輩の洞口が一緒に飲もうと言っているのに文句も言えず、作り笑顔で結城に話しかける。

「こうして話すの、卒業式以来だなあ」

結城は小さく頷く。こいつ、前より陰気さがアップしてやしねえかなどと思いながらも古尾は言葉を続ける。

「おまえ、本町から桜町に行ったんだっけな」

頷く結城にやっぱり、と古尾と立場はまた顔を見合わせる。本町交番のハコ長はパワハラで飛ばされ、桜町交番のハコ長は、ギャンブルの借金で首が回らなくなり、闇金に手を出していたのが発覚して依願退職したのである。

青い顔をして黙ってしまった二人を見て、

(幽霊の呪いなどとそんなことを信じているのか? 偶然に決まってるだろう)

そう思って洞口が結城に何か言おうとした時、

「おっ待たせいたしましたあ!」

と、店員が二人がかりで大量の料理を運んできて並べていった。それを見て洞口は思い出す。

いつだったか昼休憩時、結城が自分の弁当を開いているところに遭遇したことがある。リュックサックから取り出したそれは、手の平ほどもあろうかという握り飯と、重箱と見紛うほどの大きい弁当箱に詰めた、色とりどりの美しい総菜だった。

洞口はその量にたまげ、それ以上にあまりに旨そうなので思わず、一つくれよと手を伸ばしたのだが、途端にばしっと手を払いのけられた。

なんだ、と洞口が文句を言いかけた時、ハコ長がパトロールから戻ってきて、飯の時くらいちょっかいかけるなと注意された。

いまさらそんなことを思い出しても時すでに遅しである。誰が話しかけようと一切返答せず、一心不乱に食事をする結城を三人はただ見ているしかなかったのである。すっかり食べ終わると結城は手を合わせ、

「こんなご馳走は久しぶりでありました。ごちそう様であります」

そう嬉しそうに言って立ち上がった。財布を気にする洞口をよそに、

「おい、さっき俺たちが言ったこと、誰にも言うなよ」

古尾と立場が慌てて口止めを図るが結城は少しだけ口の端を上げて、

「本官、おしゃべりは苦手であります」

そう言ってさっさと帰ってしまったのである。財布を何度も見返している洞口の姿を見て古尾も立場もまずいと思い、

「幽霊のせいでなんかしらけましたねえ……。今日はもうお開きということで……」

と、そろそろと帰ろうとする。そんな二人に洞口は当然のように言う。

「おまえら、今日は割り勘な」

ええーっ!と古尾と立場は一斉に情けない声を上げる。しかし、結城だってこれでも遠慮したのである。もし酒も飲んでいたら、三人とも目も当てられないことになっていただろうから……。

次回更新は10月5日(月)、7時の予定です。

 

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