まえがきに代えて
現代は科学技術とりわけAIの進歩によりかつてない変化を目前にしている。このような時には人間とは一体何かという問題が切実な問題として浮上してくるのである。
人間とは何かを考えるに当たっては、人間はどうして生じてきたのかを考えざるを得ない。というのも人間はこれまで常に存在していたわけではないし、またこの先永遠に存在し続けるわけでもないからである。この宇宙の歴史の中で人間はいわば一過性の存在である。
この論考は人間の現在置かれている状況をできるだけ鮮明に理解するために、生命の発生から現生人類の登場、そして今日に至るまでの有様を認識という観点から概略説明し、また将来の展望を予測しようとしたものである。
概略というのは本来もっと詰めなければならないがそのためには時間がかなりかかるので、これでおおむね間違いはないであろうという大筋を書いたものだからである。
細部をより厳密にするには各分野の専門的知識が必要になり、私の力には余るものがあるからであるし、また、一般読者には細かい部分よりも、本質的な概略をつかんでおくほうがより重要なので、このような論考にも存在意義があると思う。
叙述の仕方は明解を旨とし、難解な書き方を極力避けている。一般に哲学書・思想書では難解でやや曖昧である方が好まれる傾向がある。それは人間でもわかりやすい人よりも深そうな人の方が興味が持たれやすいのと同じである。
しかし、この本ではそのような考えは捨てて、読んでいてスッと頭に入りやすい書き方に努めた。また堅い話の続いた後は適宜個人的エピソードなども入れて読みやすくしている。
本書で私の述べることは、全くありふれていて日々眼前で起こっていることにもかかわらず、ほとんど注目されず無視されてきたものである。
もちろんどんな哲学書にも科学理論書にも表立っては書かれなかったことである。だが、やや大袈裟に聞こえるかもしれないが、これこそわれわれ人類、いや生命の存在そのものをもたらしたかもしれない根本原理だと思われる。それについてこれから述べていこうと思う。