「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声

諸行無常(しょぎょうむじょう)の響きあり

沙羅双樹(しゃらそうじゅ)の花の色

盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理(ことわり)を表(あらわ)す」

あたりの者はみな、しーんと聞き入った。

それほど生仏の声は澄んで、伸びやかに堂内に響きわたった。

歌っているうちに、生仏には己(おのれ)の来(こ)し方(かた)が思いおこされた。

「盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理を表す」

それはまさに、華やかな宮中の楽人(がくにん)から瞬(またた)く間に転落した生仏の人生そのものだった。

「驕(おご)れる人も久しからず

ただ春の夜の夢のごとし

たけき者もつひには滅びぬ

ひとへに風の前の塵(ちり)に同じ」

何ものかに訴えるかのように、持ち前の澄んだ声を思うさま張り上げて、生仏は歌い上げた。それからも生仏の撥(ばち)は止まらず、激しく、悲しく、鮮やかに、生仏は撥(ばち)を掻(か)き鳴らし続けた。辺(あた)りの空気が澄み切り、周りの者がすべて引き寄せられるように自分の琵琶の音に聞き惚(ほ)れている。

その時、生仏は生まれて初めて、何かを感じた。

水を打ったように静かに自分の琵琶に大勢の人が聞き入り、大勢の人の魂に自分の琵琶が響き渡っていくのを、生仏は、全身で感じ取った。

思うさま琵琶を掻(か)き鳴らしたあと、静かに一つの音色を響かせると、余韻(よいん)の中に、生仏は立ち尽くした。

それは、わざと猫背にして堂の片隅にうずくまっていた、さっきまでの生仏とは、まるで別人だった。

「どうじゃ、生仏」

「はい。すごく歌いやすいし、弾きやすいです」

「行長、これを書き留めてくれ。

平家の物語の、初めの部分だ」

思わず琵琶法師達と一緒に聞き惚れていた行長は、はっと我に返った。

(なんなのだ、これは)行長は内心慌てた。

それは行長が今まで聞いたこともない琵琶と、歌の言葉だった。

行長は、大急ぎで記憶を辿(たど)り、紙に書きつけた。

この時まで、行長も生仏も、全く面識はなかった。だが慈円だけは知っていた。この二人と慈円とは、やがて壮大な試みを推し進めていくことになるだろう。

 

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