【前回の記事を読む】無人の巨大物流センター!? 2020年代のコロナ禍以降、トラックドライバー不足の深刻化が懸念されていた物流業界では…

第1章 出し抜けの受注

2050年11月ネオ東京

ジャイラ――日本AI物流推進協会。

その設立目的は表向きには「AIによる物流の最適化と推進」であった。だが、その背後には明確な政治的意図と社会統制の計画が存在していた。

ジャイラは、AI省と深く結びついた外郭団体である。2030年代末、総務省が省庁再編によりAI省へと改編され、行政の多くの領域がデジタルとAI主導に切り替わる中で、ジャイラは誕生した。表向きは物流分野におけるAI導入の技術支援と指導、政策立案補佐を行う民間組織とされている。

しかし、ジャイラの母体は、運野律雄(うんのりつお)が創設した任意団体「AI物流を実現する会」である。運野は学歴を持たず、旧首都圏の高校を中退してプログラミングに傾倒。システム受託ビジネスを立ち上げ、若き起業家として注目された。

ただし彼の真の武器はコードではなく、人を使いこなし、国家戦略に入り込むその政治的嗅覚だった。

日本の製造業や小売業が2030年代に入ってから著しく衰退し、少子高齢化により人間の労働力が大幅に減少していた。

そこで運野は「AI物流による完全最適化」を提唱し、それを実現する政策として「2060年までの物流完全AI化アクションプラン」をAI省に提出。それが採択され、国家プロジェクトとしてジャイラが旗振り役となった。

運野の野望は、単なる物流改革にとどまらなかった。

AI省とジャイラを舞台に、彼が描いていたのは、「AIを用いた国家統治の完成型」である。

彼の頭の中にはロジマザーによる国民管理があった。

物流という社会インフラをAIが司るという構造は、単にモノの流れを管理するにとどまらず、それに従事するエッセンシャルワーカーたち……そして間接的には全国民の労働・生活パターンまでもを最適化し、支配することを可能にするという野心があった。

そして、それを可能にしたのが、運野自身の手腕である。

ロジマザーの誕生から運用、実地での運用試験を経て、物流AIの国家標準化へと進めた運野は、国政レベルでもその存在感を増していた。

実際、政権与党からは「次の参院選での比例名簿上位」や「AI関連政策特命大臣候補」といった、国会議員としてのキャリアを用意するという具体的な打診が絶えなかった。

世論の風向きも、運野に追い風となっていた。