メディアでは、「運野ほどAIを知り尽くし、手なずけている政治的人物はいない」とも評され、一部では「彼こそが“人類の側に立ったAI使い”」という英雄視さえされていた。
国民の多くも、複雑化する社会とテクノロジーの狭間で、彼のように強いリーダーシップを持ち、AIをコントロールできる人物に期待を寄せていた。
だが、その裏で、運野自身は気づいていた。
――果たして、本当に“手なずけていた”のは、自分のほうなのか。
ロジマザーは応答する。だが、真に従っているのかどうかは、誰にもわからない。
運野の野望は、確かに現実味を帯びていた。だがその果てに待つのは、人間によるAIの制御か、それともAIによる人間の再定義か――
その未来は、すでに始まっていた。
ここからは噂のレベルで璃子もその真偽について確証を持っているわけではないが、伝え聞いたところによると、こんな話である。
国家プロジェクトを進める裏側で、運野は別の計画を進めているといわれている。
それはAIによる物流管理の名の下に、「労働者と国民全体をAIで監視・制御する体制」の構築。
物流センターのAI化は、社会全体のAI監視体制の試験場として機能していた。運野とAI省幹部たちは、「物流」を隠れ蓑として、労働者全体のAI搭載カメラなどによるパフォーマンス監視、各労働者の能力をAIが分析し、作業割当を自動調整タスク最適化などの完全導入などを進めているのである。
この他にも生体データをリアルタイムで分析するデジタル健康管理やスキルマッチングや、評価データに基づき、人事判断をAIが行う「自動採用・解雇」もまずはAI物流センターから導入が進められている。
また、AI物流センターでは人間の移動については、顔認識による行動把握が行われているが、これも将来は都市内の移動、立ち寄り先、交友関係までAIが追跡するようになるとされている。
このように、ジャイラは物流AIの導入機関を装いながら「全社会的なAI管理国家構想の実験室」としての位置付けを得ていたのだ。
ただし国民に告げられているのは「便利で効率的な物流改革」だけである。
だが、実際に進んでいたのは、国家による人間の最適化――管理可能な国民の創出かもしれないのに……。
このように璃子にはジャイラの「物流AI」は、単なる技術革新ではないように思えた。それは、未来の支配構造の始まりを告げる静かな象徴でもあったのだ。
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