【前回の記事を読む】日本政府は国家プロジェクト「第5世代コンピュータ」を立ち上げ、500億円以上の予算を投入した。その結果は…

第1章 出し抜けの受注

2050年11月ネオ東京

「荷宮様」

ふと、背後から声が聞こえてきた。

「どうしてもお会いしたいという方がいます。お通ししてよろしいでしょうか?」

 振り返ると、しっかりとした身なりの年配のセミナースタッフが、端整な顔立ちの若い女性スタッフを連れてきた。

「私、ジャイラの道庭環奈(みちばかんな)と申します。実はロジマザーのオペレーションについて、ご相談したいことがありまして……。たまたま本日、荷宮様がこちらでセミナーの講師をされるということを知りましたのでうかがった次第です。

実はもう三年くらい前のことなんですけど、以前もセミナーに参加したことがあるんです。そのときにも量子コンピュータを活用した在庫管理システムについて、いくつか質問させていただきました」

ずっと聞き惚れていたくなるほどの美しく澄んだ声である。

「そうなんですね。確かに以前、お会いしたことを私も思い出しました。しかし、ジャイラの方とは存じませんでした」

日本AI物流推進協会(JAILA:ジャイラ)は巨大物流センターにおけるAI物流センター長の普及活動を行っている政府外郭団体である。2040年代の省庁再編で誕生した「AI省」が主導する、AIによる物流センター運営を推進する組織である。

「ぜひ一度、ジャイラ本部のほうにお越し願えませんか。荷宮様に折り入ってご相談したいことがあります。ロジマザーにとある問題が発生しまして、相談の性質から、できればオンラインは避けたいと考えています。オンラインの場合、デリケートな話でもレコーディングされてしまうことも多いですから」

「とある問題……ですか」

「ぜひとも荷宮様にお願いしたいのです」

AI物流の導入に大きな権限を持つジャイラがなぜ若輩者の私に相談なんかもちかけてくるのだろうか……と、璃子は不審に思った。

「もちろん、ご相談だけではなく、ジャイラが現在開発中の『考える物流センター』の最新バージョンについても説明させていただきます」

道庭環奈の言う施設は物流の最先端になる。ジャイラの持つ巨大物流センターでは人間は働いておらず、庫内作業は物流ロボット、運搬・輸送は自律走行搬送ロボット(AMR)やドローンが担っているのである。