《同・細道》
雨はいつの間にか止んでいる。
安兵衛、戸口から首を出し、世津の後ろ姿を見つめている。
世津が傘を畳んで歩いて行くと、長屋の管理人の一之助(25)とすれ違う。
一之助、世津を通せんぼして、うっとりとした顔で、
一之助「せっちゃん、相変わらず、綺麗だね」
世津「今日は何ですか? 一之助さん」
一之助「そんなつっけんどんに言わないでおくれよ。しゅう、集金だよ、集金」
世津「晦日まで、まだ三日ありますよ」
一之助「晦日まで待てなくてね。おせっちゃんの顔が見たくてさ」
世津「忙しいんです。晦日に来てください」
一之助「つれないこと言わないで、どうだい今度お芝居でも見に行かないかい。猿若町に団十郎がかかっているんだよ」
世津「他の人と行ってください」
一之助「そんなこと言わないでおくれよ」
世津「ともかく、私は行けません」
と一之助の体をすり抜けて歩き出す。
一之助「ねえ、おせっちゃん」
と追いかけようとする。
そこへ、人入れ稼業と目明し稼業の二足の草鞋(わらじ)を履く般若の鬼造親分(50)が十手を振り回しながら、手下を連れて現れる。
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