【前回記事を読む】飲み屋で「水」を頼んだが「これは酒じゃねえか」…。これからご家老のもとへ行くのに……
走れ安兵衛 ―安兵衛の恋・逢わずして許我ゆく駕籠に―
(シナリオ)
《同・飲み屋(夜)》
客「亭主! あんたがヤっさんに助けられたってえのはどういうこってえ」
亭主「何だと。この酔っ払えめ! さっきも言ったんべよ。俺が浪人からいちゃもん付けられたときに助けてくれたんだよ。何回言わせるんだ」
客「うん、そういえば、うんうん。(ういーとしゃっくりして)ところで、ところでだ!…… ヤっさんは、どうしてお侍なのに俺たちに親切なんだい? もう少しお侍みたく威張ったらどうだい?」
安兵衛「(眠そうな目を細く漸く開けて)だって、おいらはもともと百姓の次男坊だし、足軽だからな。侍といっても。……それに困っている人を見ると見てられないんだ」
と、台に突っ伏せる。
台に突っ伏した安兵衛、突然、立ち上がり、
安兵衛「いけねえ! ご家老へ」
慌てて、駆け出す。
《足軽長屋の安兵衛の家・玄関(夜)》
ふらふらと入ってくる安兵衛。
ばあやのぎん(60)が出て来る。
安兵衛「(ろれつをもつれさせて)おー、ぎんさん、水!」
ぎん「おやおや、これだから、三十にもなってお嫁さんが来ないんだに~」
と呆れるが、思い出したように、
ぎん「江戸からのご用はお済みなのですか?」
安兵衛「あ~どうにか、どうにか、な」
へなへなと腰を落とす。
安兵衛「(むにゃむにゃと)大目玉食らったがな~」
と、玄関にへたり込み、いびきをかき始める。
ぎん「これなんだから……折角、学問と柔術が得意だからと、旦那様が足軽の株を買ったというだに」