《江戸の町(日替わり、夕)》
陽が落ち、夕闇が迫っている。走ってくる安兵衛。
江戸城が夕闇の中に見える。
《江戸呉服橋・古河藩上屋敷・門前(夜)》
陽が落ち、かがり火が点けられている。
門番に頭を下げて入っていく安兵衛。
《同・藩邸内江戸家老鷲見泉石居室》
江戸家老の鷲見泉石(60)が書見台でオランダの書を読んでいる。
泉石「ほう、ナポレオンが……」
そこへ、藩主の近習侍が入ってくる。
近習侍「ご家老、殿がお呼びです」
《同・藩主居室》
藩主の利則が扇子を開けたり閉じたりしながら考え込んでいるところへ、泉石が入ってくる。
泉石「殿、泉石、参りました」
利則「うむ、国元への文(ふみ)を頼みたいと思ってな。……大老が桜田門で殺(あや)められて二ヶ月」
泉石「はい……」
敏則「江戸の状況を国元へ知らしめようと思ってな」
泉石「は、左様でございますな。……水戸の者達がさらに無茶なことをしなければよいのですが」
利則「うむ」
泉石「私は、開国止む無し、むしろ積極的に開国すべきと思うのです。海の外の情勢を考えると、早くにアメリカやイギリスの制度や軍事を学ばねば清国のように大きな犠牲を払うことになるのではと」
利則「余もそう思う。幕閣にもそう伝えておる。いずれにしても、国元に斉昭公のことを伝えてくれ。それと、我が藩にも、外国打ち払いを叫ぶ強硬攘夷派の動きがある。国許の大杉にくれぐれも注意するように文を出してくれ」
泉石「は! 早速」
近習侍が入ってくる。
近習侍「国元より封書が届きました」
封書を泉石に手渡す。
泉石「安兵衛が着いたか。丁度よかった、安兵衛に急ぎの用を頼みたいと思っておったのだ」
近習侍「慌ててもう、すぐに飛び出して行きました」
泉石「何、すぐに呼び戻せ!」
近習侍「ははあ~」
近習、慌てて部屋を飛び出す。
泉石「相変わらず、そそっかしい安兵衛よ」
と、苦笑い。