実際、私たちの元には、整備士の転職相談に混じり、経営者の方自身からの就職相談も寄せられています。「整備士がどうしても採用できず、事業継続を断念した」「従業員を抱える経営のプレッシャーから解放され、サラリーマンに戻る方が精神的に楽だ」といった声は、人材不足が事業の存続そのものを脅かしている現実を物語っています。
注目すべきは、従業員10人以下の小規模企業が整備事業者の約7割を占めているという現状です。これらの小規模事業者は、大規模な採用活動を行う体力に乏しく、慢性的な整備要員の不足に頭を悩ませています。(令和6年度自動車特定整備業実態調査結果の概要について)
ここで、想像力を働かせてみましょう。もし、この7割を占める小規模事業者が、後継者不足による倒産によって一気に市場から姿を消した場合、一体何が起こるでしょうか。その受け皿となるのは、残された中小企業とディーラーです。
これまで小規模工場で対応してきた整備台数が、一気にこれらの事業者に押し寄せることは容易に想像できます。そうなれば、キャパシティを超えた整備依頼に対応しきれず、予約は数週間、数ヶ月待ちという状況が常態化するでしょう。
自動車整備業界が直面する後継者不足とそれに伴う事業場数の減少は、もはや個々の事業者の問題ではなく、社会全体の交通インフラの維持を脅かす深刻な事態です。この状況は「整備版パンデミック」とも言え、働く場の減少が整備士のキャリアパスを狭めて業界の魅力を低下させ、人手不足をさらに加速させる負の連鎖を生んでいます。
このままでは、近い将来「車検や修理を受けたくてもできない」という事態が現実となりかねません。さらに、社会の血脈である物流を担うトラックや、人々の移動を支えるバス、タクシーといった商用車の稼働にも支障をきたし、物流の停滞や公共交通の麻痺を引き起こす可能性があります。そうなれば、経済活動に深刻な打撃を与えるだけでなく、特に地方では生活基盤そのものが成り立たなくなる恐れもあります。
自動車整備業界は、後継者育成や小規模事業者の存続支援といった喫緊の課題に業界全体で取り組む必要があります。これは、私たちの安全・安心な暮らしと社会経済の基盤を根底から揺るがしかねない、社会全体の安全保障に関わるテーマであり、国や私たち一人ひとりが真剣に向き合うべき時を迎えているのです。
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