手白香妃の妹、王女二人を無事越国に、婚儀も無事終了し、大和への帰国を急いでいた金村は、ここ数日足止めされていた。
前日、明日の船出の儀式に立ち会うようにと伝えられていた。夕闇迫る中、御国の河口に大形の船が次々と就き始めるのを目の当たりにする。
翌早朝、湊北側の丘に案内された金村、衝撃を受けていた。
本格的な海戦を経験したことのない大和の連大伴金村にとって、改めて越国の偉大さを見せつけられたのである。
百済国からの「任那割譲」の四文字が頭を横切るが、振り払った。手白香妃の婚儀にかこつけ大和豪族の小競り合いから逃れていたものの、まさか越の地でこのような遠征出立の場に立ち会えるとは思いもせず、この国の武力の大きさに、大王に敬服するばかりであった。
「井の中の蛙、大海を知らず」
まさに我が身を恥じていた。周りを見渡せば、居並ぶ大王の外戚の面々、三尾角折、三尾堅威、坂田連、根王、茨田連、和珥氏、尾張連、そして息長真手王がいた。
「大和には、大伴氏には、何か知らせがあったのか」
おもむろに、息長氏が皆の前で聞いてきた。
「今は何も言えない。私の立場がある」
「どうであろう、皆が顔を揃えた、せっかくの機会。大伴氏の苦しい立場はよく分かっているつもりだが、大王に頼み事する前に、相談し合おうではないか」
尾張連、きっぱり言い放った。
ええい、成り行きで手白香を大王に押し付けた私をどうしようとするのか。金村は窮地に追い込まれたイノシシのように、周りを威嚇する。
「この湊を見下ろすこの丘に、我らと立たせた大伴氏に、大王はある望みを託している」
やんわりと、三尾角折氏が話し出した。
「それを聞いてからでも遅くはないだろう」
三尾角折氏は建国からの豪族たちの大長で、王妃稚子の弟でもある。
「ここは冬の宮、私の地盤となる堅威」