私はだ~れ。私は妻よ。誰が何を言おうが、高城健友の正妻でございます。

「ちょっと愛理、飲み過ぎてないかな」

恵が優しく背中をさする。ありがとうと思いつつ、もうふた口ぐびりぐびり。

そんな愛理を薄目で見下ろしながら不敵に微笑む亜季。ダウンライトの店内で今日は一段と綺麗だ。いや負けないと首を振ってみせる。

亜季は勢いを止めなかった。

「でもね、結婚となるとほら、夜を共にするわけじゃない。毎日さ」

「毎日?」

驚いて声が出てしまった。今はそこじゃない。

「それは凄すぎない。ありえないわ」と目を伏せる恵。恵が、ここ2年、相手がいないというのは本当だろうか。なんでもそれは燃えるような熱烈な社内恋愛を過去にしたという噂はあるが。

「違うよ、違う~」

笑う亜季。なんだか小憎らしく見えてきた。こんな気持ちは初めてだ。

「たださ、ほらダブルベッドだったら、毎日隣でしょ」

「ああそういうこと」

気の抜けた声が揃った。

「やっぱり寝る時の癖って許せるのと許せないのがあるね」と亜季。

思い当たる節があって思わずがばと口を押さえた。なぜか隣の恵まで口を押さえる。

この人はこんなふうに人と同調してくれるからたまらない。地味でおとなしいけど、お嫁さんにしたい社内ランキング、ナンバーワンだなと思う。

寝癖……いびき、歯ぎしり、寝言。多々ある。でも健友のあれは。あの要求は確かに引くかもしれず。

まだまだ続くはずの気楽で楽しいはずの飲み会を愛理はぷつんと自分から切った。

割り勘より少し多めのお金をテーブルに打ち付けるようにはたき、「じゃ」とだけ告げた。

なにも恵まで置き去りにしなくても良かったのに、と後で思う。亜季は気に留めてもないようで、ひらひらと手を振って見送られた。

愛理は呪文のようにつぶやいていた。酔っていたはずのほてりもまるでなかったように、頭の中が一つのことで冴えわたる。それは夫に亜季との仲を問いただすことでも、嫉妬のあまり泣いてみせることでもなかった。

「やめさせてやる。あの悪い癖、おねだりを!」

怒りにも似た決意をバッグのベルトを持つげんこつに込め、人もまばらになってきた道を駅へと小走りになった。

次回更新は8月13日(木)、20時の予定です。

 

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