宴が始まってしばらく経った頃、会場の喧騒を切り裂くようにして、一人の長身の男が立ち上がった。

「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます!」

東屋晴翔(あずまやはると)。

180センチを超える長身に、彫刻のように整った顔立ち。東大の中でも最難関とされる医学部に身を置きながら、既に司法試験に合格しているという。それだけではない。高校時代には柔道で日本一に輝いたという経歴まで持つ、まさに天に二物も三物も与えられた男だ。

僕のように教科書を暗記して這い上がってきた人間とは違う。彼のような存在こそを、『本物の天才』と呼ぶのだろう。

僕が圧倒されて視線を泳がせていると、隣の友人が「飲み会の初めは、いつも代表の東屋さんが挨拶してくれるんだよ」と耳打ちしてくれた。

東屋さんの爽やかな挨拶が終わると、一斉にグラスが掲げられた。

「乾杯!」

アルバイト先の居酒屋で何度も目にしてきたその光景に、僕も周りに合わせてグラスを上げる。初めて自分もその『輪』の一部になったのだという、むず痒いような感覚が胸を掠めた。

宴が始まると、思いがけず多くの人が僕に話しかけてきた。

入試を首席で合格したことや、講義中の僕の机に大量の食料が積み上がっていることは本人が知らないところで有名な話になっていたらしい。

「東大首席って、やっぱり脳の構造が違うの?」

好奇の目に混じって、時には「首席の割には、随分と貧乏くさい格好してるんだな」という冷ややかな言葉が投げかけられることもあった。けれど、そのたびに隣にいた友人が「そんなこと言うなよ!」と僕を庇い、相手を厳しく注意してくれた。

その温かさに救われながら、僕はただ、自分に向けられる多種多様な視線に耐えていた。

そんな折、人だかりを割るようにして、グラスを手にした東屋さんがこちらへ歩み寄ってきた。

「少し、話してもいいかな?」

完璧な天才の瞳が、真っ直ぐに僕を捉えた。

東屋さんに対して周りの友人たちが一斉に立ち上がり、今日のお礼を述べた。僕も慌ててそれに続いて深く頭を下げる。