【前回の記事を読む】会えると信じていた彼女は、仏壇の中で笑っていた――その母が泣き崩れながら告げた“子供”の存在とは……

第七章

「それでいいの。遥香は自分が死ぬことをわかって、子供を生んだのよ」

「死ぬことを、わかってた?」

「そうよ。あの子は昔から身体が弱くてね、よく学校を休むこともあったの」

遥香の貧血は知っていた。ただそこまで身体が弱いのだと思ったことはなかった。

「妊娠がわかって、由紀子がおろそうって言ったとき、いつも優しくて素直で人に気を遣ってしまうあの子が、珍しく猛反対したの。身体が弱いせいで、出産と引き換えに死んでしまうかもしれないと医者が言ったのに、それでもあの子は生むと言って聞かなかった」

「……なんで……、どうして、そこまで……」

「ここに書いてあるわよ」

目を真っ赤に腫らした由紀子さんは、立ち上り仏壇まで移動すると、引き出しから一枚の小さな封筒を取り出した。そして、それを僕に渡した。

「あの子があなたに宛てて書いた手紙よ」

「手紙?」

「中は見ないように言われているから、内容は知らないの。いつか、あなたがここに来たときに渡してほしいって。遥香が死ぬ直前に書いた手紙よ」

困惑しながらも、封筒に目を落とす。薄い水色の封筒には表面に大きく『優くんへ』と書かれている。裏をめくると『遥香』と書かれていた。遥香の字だ。三年ぶりに見ても、それが遥香の手によって書かれたものであることは、容易にわかった。

「ごゆっくり」

由紀子さんと遥香の祖母は、僕を部屋に残して出て行った。

これは読んでもいいものなのだろうか。遥香がたしかに僕に宛てて書いたものなのだから、僕が読むことは間違いではない。臆病で読めないのではなく、三年も経ってしまった今の自分に、読む権利などあるのだろうかという疑問が浮かんでくるのだ。

それでも、僕が封筒の封を丁寧に剝がしたのには、彼女の声を聞きたいという好奇心が、衝動に化けたために他ならなかった。なにしろ、僕が遥香と最後に話したのは、なんでもない、ただの学校からの帰り道だったのだから。

水色の封筒から出てきた、いわば僕に向けられた遥香からの最後のメッセージは、二つ折りの四枚の紙だった。いずれも可愛い動物や花が描かれた桃色の便箋で、いかにも遥香が好みそうなものだ。

便箋につづられた丸い文字が懐かしい。三年ぶりに、遥香と会話をすることにしよう。