3.明晰夢 ―メイセキム―

部屋の中は明かりが消されて静まり返っている。霞んだ視界に夜明けのような鈍い輪郭を浮かばせている光源は、バスルームの洗面台に備えつけられた二つの滑らかな丸いフィラメント球だった。

レゲエミュージックを大音量でかけた車が外の駐車エリアに侵入してくる。光軸のずれたヘッドライトの線が部屋のガラス戸を舐めるように横切り、あらゆる輪郭が細長い影を引き伸ばしてゆっくりと角度を変え、やがて薄らいで消える。

それを見ている僕はわけのわからないいろいろな感情が小さなダムの欠壊シーンのようにボンッと胸の間をくぐり抜けて、少しの間また目をつむり呼吸をする。車はすぐ近くで一度エンジンを空ぶかしさせて切った。

天井でまわる一枚の羽根が折れたシーリングファンの音、過去のデッサン画が画鋲を刺すと白い粉がこぼれ落ちる硬質な壁にビニールテープで張られてある。

ふと目をそらしそうになるくらい強い意志を放つマドカの裸体の写生のとなりに、遠くの何かを見据えた自画像がある。

ラウンドテーブルの端から垂れている頭髪は、アップ用のファッションウィッグだ。その上に散らばるガムの銀紙、食べかけのライチ、壁隅のチェストの上には簡素な神棚があって、そこだけ厳かな空気の膜に包まれているように見える。

二つの燭台の間に控えめな花束が置かれ、その奥に一枚の水彩画が祀られていて、タイ王国の何代目かの国王だという男の顔がそこには仔細に描かれている。そしてその前に正座をして、物音一つ立てずにじっと黙し、祈祷を続ける一人の女性が見える。いまジャムプーンに話しかけてはいけない。

またすべての輪郭が曖昧にぼやけてすっと暗くなり、駐車エリアの外灯の下でジャムプーンがこちらを向いて手を振っている。

「なあ、そんなシースルーで外出るの止めろよ。勘違いされて襲われても知らないからな。これは夢なんだから、ワニより危険なやつが出てくるかもしれないぞ。面倒くさいからジュン、早く部屋に戻ろう」

暗闇の中で、ジャムプーンは僕がいつか教えたスキップを軽やかに踏みながら何かの歌を口ずさんでいる。カチューシャで後ろにまわされた柔らかい髪が後頭部の透けた地肌を隠し肩先で風に砕ける。指先にクルクル巻いて束ねるとクォーターコイン大のダンゴになってしまうジャムプーンの後ろ髪を、僕は蜘蛛の糸でできた飾りだと思う。

「ほら見て、アタシ後ろ向きでもできるようになったの。ババーイ、ケル! パッ、レオレオッ」

 

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