【前回の記事を読む】キングサイズのエアーベッドがブルブルと音を立てて軋み続けている… そこには誰かに抱かれている女性がいて…
2.饗宴
「クソったれ!」
日系二世の少年が英語でそう吐き捨てるように叫び、ゆっくりと両手を胸許まで上げた。ファックマイライフ、ウィアダン。
「ハッピバースデーイ! ダニー!」
婦人警官の背後から、角形の巨大なバースデーケーキを抱えたハルカが悪戯っぽく舌を出した顔を蝋燭の灯りに揺らめかせながら覗かせて現れる。リッキーとヒカルがパーティークラッカーを天井に向けて盛大に鳴らした。警官に扮したマドカは目深に被った帽子のつばをぐっと持ち上げ、
「ごめん仕事が長引いてさ。お店の衣装部屋からこれ持ち出すの大変だったよう。お誕生日おめでとうダイスケ、驚いた?」と深い呼吸をしながら微笑んで、片目をつむり赤い唇をすぼめて空中にキスした。
酩酊して立ち上がることもままならないモブが、「オメデトゴザイマス!」と太い声を上げ、意識のまだ確かな数人の男女がそれに続き声を合わせて手を叩き、ダイスケを取り囲んでバースデーソングを速いテンポで歌い始めて僕もかろうじてそれに加わろうとした。
「マドカ、危ないからそのヴァグラムもう車に置いてきな。そういえばどこかでシーズー見かけなかった?」
彼女はスカーレットという一流の踊り子たちがしのぎを削るストリップクラブのトップダンサーで、僕の頭をパーンとふざけて撃ち抜く素振りをしてみせてから、「何、うるさくて聞こえない」と綺麗な片耳をこちらにそばだてる。
リビングの隅に詰め寄られたダイスケは一度深呼吸をしてひと息で蝋燭の炎を吹き消した後、涙を拭うようにカラフルな角形のケーキに躊躇なく顔面を潜り込ませてヒカルがその頭を後ろからぐりぐり押し込んで笑う。
「もう、みんな自分勝手であたしタイミング見計らうの大変だったんだから。でもすごいサプライズでしょ。これ知らなかったのダイスケだけよ。マドカさん本当にありがとう」
マサはぐったりと壁にもたれたまま、まだ頷き続けている。
奥のバスルームから441号線の路上で誰かがピックアップしてきたという年増の娼婦が痺れを切らしたように下着姿で出てきて、ダイスケの唇を生クリームを食べながら探した。
「ねえ、あんた髪洗っておいでよ。あたしそんな脂ぎった頭の男なんてやあよ。すごくさっぱりするからその頭早く洗っておいで。そしたら壊れるくらいしてほしいな。天国に連れてってあげるからほらねえ早く洗ってこいよお」
いつの間にか音楽が終わっていて、リッキーが差し替えたスロー・ハンドのひどく消耗した歌声が聞こえてきて初めてそのことに気づいた。『ギヴ・ミー・ストレングス』これもだいぶ昔の、古い曲だ。