「う、うわ〜ん」 一段と声をはりあげた秋子ちゃんに、ホセフィーナ先生はかがみこんでたずねました。秋子ちゃんは涙でぼろぼろの目をぬぐいながら、慎ちゃんを指さしました。
先生の青空のような美しい目の奥に、あらしのような目がひそんでいるとは慎ちゃんは思いもしませんでした。身がすくみました。
「シニーチ!」
先生のきびしい顔が慎ちゃんの前に近づきました。
「ケ イシステ ア エージャ」(あなた、彼女に何をしたの!)
(ホセフィーナ先生に誤解されたくない、でもどうやって今朝の事件を説明しよう)
慎ちゃんはあせりました。心の中は不安と、でも、自分なりの正義のいかりでふるえていたのです。
「エージャ……」(彼女は)
とっさにそう言ったのはいいのですが、
「たおれたぼくを笑った」
そう言いたくても「笑う」というスペイン語をまだ知りませんでした。
(自分は悪くない)
そう信じているとき、人は強いんです。慎ちゃんは、日本にいたころ、母さんの妹や弟たちの、まき子叔母ちゃんや浩三叔父ちゃんたちとよくジェスチャーゲームをしていた方法をとりました。
まず、「ビシクレータ」(自転車)と言いながら自転車に乗っているまねをしました。先生は、しおれると思っていた慎ちゃんが、変なかっこうを始めたので、「ん?」という表情で目を丸くしてながめていました。
つぎに、日本語で「たおれた」とたおれるしぐさをしながら、本当にばたんと廊下にねころがりました。
(先生、分かってくれてるんだろうか……)
「アハン」
ホセフィーナ先生がうなずきます。
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