(三) 慎ちゃんの迷演技?
慎ちゃんがシモン・ボリーバル小学校に通い始めてひと月もすると、同じ年の竹中秋子ちゃんも入学しました。みんな同じような歳だったのでとても仲が良く、いつもいっしょに自転車で競争しながら通っていました。
いつもの朝のように、でこぼこ道を走っていると、突然、慎ちゃんの両うでにガツンという衝撃(しょうげき)がありました。つぎの瞬間、慎ちゃんはあっという間に道路にたたきつけられていたのです。自転車の前輪が大きな穴に落ちこんだからです。
足のすねを思いっきり何かで打ったらしく、あまりの痛さに声も出ず、足をかかえて慎ちゃんはその場にうずくまってしまいました。だまって必死に痛みをこらえてしゃがんでいると、だれかがクスクスと笑い始めたのです。
なんと、ふだんはおとなしくて優しい秋子ちゃんでした。やがて、そのクスクスがケタケタという大きな笑い声に変わりました。それも、涙を流さんばかりの笑い方で。何がおかしかったのでしょう。
「なんがおかしいとかっ!」
思わず九州弁でしかってしまいました。秋子ちゃんは「ごめん」と言ったのかもしれません。いや、秋子ちゃんのことだからきっと、そう言ったと思います。でも、そのとき、慎ちゃんは痛さのあまり何も聞こえませんでした。
学校にはなんとか着きました。昼休みになっても、すねの痛みはうずくばかりでうまく歩けません。そんなとき、廊下ですれちがった秋子ちゃんがニコニコしていたので、慎ちゃんは「フフ」とまた笑われたような気がしたのです。
「なんや、秋子ちゃん、人が痛いのがそんなにうれしいとかっ!」
つい、にくまれ口をたたいてしまいました。
秋子ちゃんがドドッと泣き始めました。虫歯だらけの口を大きく開けて。大つぶの涙をぼろぼろながしながら。わんわん泣き始めました。
慎ちゃんはこまってしまいました。妹のまち子ちゃんが、わがままから道路にあお向けになって、足をバタバタさせて泣いているのを見て、お兄ちゃんらしく、しかったことはありましたが、自分のせいで女の子が涙を流すなんて! だからそのものすごい泣き声に、慎ちゃんはどうしていいか分からなくなりました。
秋子ちゃんの泣き声は小さな学校中に響き渡りました。
「うぁ〜ん、うぁ〜ん」
八の字になった眉をしたホセフィーナ先生が、いつも以上の大またでドンドンドンとやって来ました。
「ケ パソ、アキーコ!?」(どうしたの、秋子!?)