【前回の記事を読む】「階段のある建物が見える?あれは警察署よ」母さんが指差しながら説明してくれたとき、突然ブレーキがかかって急停車し…

第三章

(一)ホセフィーナ先生の入学許可証

その人を見た慎ちゃんはドキッとしました。自分の背たけの倍はあるかもしれないと思うほど背が高く見えたからです。でも実際は、母さんより数センチしか高くなかったのです。マリア先生と同じような真っ赤な背の高いハイヒールと、同じ色のワンピースを着ていたので、よけいに高く見えたのでしょう。

その女の人はしばらく母さんと何か話をしていました。

「シー、シー」(はい、はい)

母さんの声だけがよく聞こえます。すると、その人が急に慎ちゃんの方を向いて、

「シニーチ?」とたずねると、つかつかと大またで近づき、急にかがみこんで慎ちゃんをしっかりだくと、ほっぺたにキスをしたのです。

このキスが、慎ちゃんの新しい先生、ホセフィーナ先生の入学許可証になりました。 生まれて初めて、母さんとはちがう人からほおにチューをしてもらった慎ちゃんは、映画好きの両親とよく見ていた外国の映画の中で、男の人と女の人がチューをしているのを思い出しました。でも、母さんのチューとこの先生のとは、全然ちがう感じでした。

慎ちゃんの心臓はもうあっちにいったりこっちに来たり。それに先生が近づいたとき、なんといい香りがしたことでしょう。まるで、花畑に囲まれたようないい香りでした。

この日から慎ちゃんは、この小さな小さなプロテスタント系私立小学校の生徒になりました。そして、朝八時の授業に間に合うように、やっとペダルに足が届くような自転車をこいで、最初に入っていた杉山さん姉妹たちと通い始めたのです。