その声と同時だった。不思議なことに、蚊の集団はまるでスイッチが切れたように動きを止めた。そして、その場でホバリングを繰り返したかと思うと、山頂の方角へと飛び去っていった。

「大丈夫か、坂田」

城戸はテントの上に倒れている坂田に声をかけた。「大丈夫です。けっこう刺されたみたいですけど」と強がってはいるものの、坂田の顔は火ぶくれのようになっている。

「取りあえず、この薬を」

崎野がテントから這い出して虫刺されの薬を塗り始めた。が、とても分量が足りそうにない。とにかく船を呼んで撤収しよう、と城戸は衛星携帯を取り出し、船長に電話をかけた。しかし、返答は芳しくなかった。「今夜はしけで船は出せない。朝まで待ってほしい」というのだ。

そこへ大粒の雨が落ちてきた。

「天気予報、当たっちゃいましたね。どうしましょうか」

いつも元気な崎野も、さすがに心もとない顔で城戸を見た。壊れたテントの中で一夜を過ごす方法もあるが、何かほかに手立てはないか……。

途方に暮れかけたとき、テントから顔を出していた瞳が何かを見つけたらしく、山腹を指さした。

「パパ、あそこが光ってる」

確かに、灯台の明かりが照らすたびに、キラッと輝く場所があった。どうやら窓ガラスのようだ。ひょっとすると旧日本軍の建物跡か、廃屋かもしれない。もしそうなら、蚊の襲来と雨を避けられる。

「とにかく行ってみよう」

四人はおずおずと山道を登り始めた。

 

👉『BLUE EYE』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】妻の姉をソファーに連れて行き、そこにそっと横たえた。彼女は泣き続けながらも、それに抵抗することはなかった

【注目記事】アプリで出会った女性と初めて大人の関係に。最初のデートの時とは打って変わって、彼女のノリは悪く…

 

ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp