【前回の記事を読む】食べ物に無頓着な城戸は、深夜にカップラーメンをすするのが好きだった。だが几帳面な妻から注意され、離婚した

episode1 異変

とくに、城戸と組むときは理屈抜きに面白かった。上司の指示は聞かない。他社と同じ取材はしない。危険なところほど行く。社内で「暴れん坊将軍」と呼ばれているのも分かる。後輩にも厳しかったが、ちゃんと筋の通った厳しさだった。城戸が自分の気分や理不尽なことで怒った場面を見たことは一度もない。

正義の味方であるはずのマスコミだが、テレビ局も出世争いにまみれたサラリーマン社会だ。しかし、部長の「山ブー」のように、仕事はそっちのけでゴマすりに血道を上げるアホな連中が多い中で、城戸はそんなことには全く興味がないように見えた。というか、そんな争いに巻き込まれるのを拒絶しているようだった。

坂田には忘れられない光景がある。三年前、北関東で、ある建設会社の従業員が次々に殺害される事件が起きた。警察庁に強かった城戸は、その建設会社の社長夫婦による保険金殺人であることをつかみ、特ダネを連発した。

その最中、一度だけ、予定していた映像の素材が昼のニュースに間に合わなかったことがある。夫婦の犯行に関する重要な証言映像だったが、坂田のカメラアシスタントをしていたバイトの不手際で、編集が間に合わなかったのだ。

タイミングの悪いことに、その日の昼ニュースを統括する部長は山ブーだった。坂田が城戸の子分のように動いていることは、山ブーにもよく分かっている。思った通り、鬼の首を取ったかのように坂田への攻撃が始まった。

「バイトも監督できずにどうする!」「体育会系には知恵はないのか」とまあ、罵詈雑言が続く。ミスはミス、仕方のないことだと坂田は黙っていたが、城戸は違った。