「これは俺のネタだ。これまで他社に負けたことはない。それをあんたにとやかく言われる筋合いはない」

口調は静かだったが、その気迫に押され、山ブーは反論できなかった。

それからしばらくして、制作局へ異動した城戸の後を追って、坂田もついてきた。城戸の仕事ぶりを知ってしまうと、どうしてもほかの記者の動き方は生ぬるく感じてしまう。

一言で言って、ワクワクしないのだ。それは事件報道だろうが、企画ものだろうが、同じだった。追いかける事象ではなく、人なのだ。目の前の海に広がる漁火の「星雲」を撮影しながら、坂田はあらためてそんなことを考えていた。

そのころ──。夕食を終えた瞳に、異変が起きていた。それまではしゃいでいたのに、口数が少なくなり、頭を両手で抱え込んでしまった。「どうしたの?」と崎野が尋ねると「いつもの耳鳴り」と言う。

「瞳は耳が良過ぎてね。ピアノをやらせ過ぎたのかな。時々、耳鳴りがして頭痛がするんだよ」

城戸が説明していると、瞳が顔を上げた。

「でも、いつもと何か違うのよね。ぶーんっていう音がする。気味が悪くて」

「何も聞こえないけどなあ」

城戸は耳を澄ませたが、何も感じ取ることはできなかった。

瞳がピアノを習い始めたのは、幼稚園に入ったころだった。女の子だからピアノでも、と城戸が言い始めたのがきっかけだった。香織は「女だからピアノっていうのはどうかしら」と気が進まない様子だったが、ピアノ教師から「この子は音感がいい」と褒められて、のめり込んでいった。