たしかに同年代の子どもの中では上達も早く、ピアノ教師も目をかけてくれた。おかげでコンクールに上位入賞もしたが、課題はどんどん難しくなり、小学校に入ると、香織は毎日つきっきりで練習させた。
城戸は警察担当で夜討ち朝駆けの日々。警察官の自宅や立ち寄りそうな店を回って情報収集し、夜中に帰宅、早朝には出かけた。香織と瞳がどんな毎日を送っているかも知らなかった。いや、香織に言わせれば、知ろうともしなかった。
瞳の頭痛が始まったのは、そのころだ。専門医に診せると、成長すれば治るだろうとのことだったが、香織は自分がやり過ぎて瞳に精神的な負担をかけたせいではないかと悩んでいた。城戸がそういう香織の思いを知ったのは、離婚するかしないかという話になってからのことだ。
気づくのが遅過ぎた。瞳の頭を撫でてやりながら、城戸は今さらながら自分の鈍感さを悔いていた。
「そう。瞳ちゃん、ピアノが上手なのね。お姉さんも少しは弾けるよ。今度、何か弾いて聴かせてね」
父娘の事情を知るはずもない崎野だったが、二人の気持ちを楽にしようと会話を継いだ。
崎野の父親は幼いころに亡くなった。だから、慕っていた父と離れなければならなかった瞳の哀しみが胸を刺した。
「大丈夫よ。パパが一緒だからきっと治るわよ」
瞳を抱き寄せ、頭を撫でている崎野を見て、城戸はこのところ忘れていた温かい感情を思い出した。と同時に、いつも「元気」を売り物にしているリポーター崎野の意外な一面を知った気がして、はっとした。