叫び声を聞いた三人は、ただ事ではない、と目を凝らした。
城戸が手元にあったライトを照らした。
坂田だ。何か叫びながらこちらへ走ってくる。
「蚊が、蚊が。あー、ぺっぺっ」
ほとんど前は見えていない様子だ。その後方から、真っ黒い霧のような虫の集団が、ジグザグ行動を繰り返しながら坂田に追いつき、襲っていた。
「瞳、お姉さんとテントに入れ。早く!」
崎野が瞳をかばいながらテントに入ったのとほぼ同時に、坂田が城戸の足元にヘッドスライディングするように倒れ込んだ。
城戸は簡易テーブルの上に置いていた殺虫剤をすばやく手に取り、周囲に噴霧しながら、這いつくばっている坂田の全身に振り掛けた。しかし、効果は限られていた。噴霧した瞬間、相手はひるむのだが、次から次に新手が現れる。徐々に城戸も囲まれ、耳たぶや足首を刺され始めていた。
そのとき、夢遊病者のように起き上がった坂田が、テントの方角へ向かった。まずい。城戸はとっさにそう思った。坂田がいったん防虫ネットを開ければ、大量の蚊がテントに入り込んでしまうからだ。
だが、遅かった。テントの中に入ろうとした坂田は、こともあろうに、つまずいてそのまま倒れ込んでしまったのだ。
グシャッ。
テントの骨組みが壊れる音がした。パニックになった坂田が暴れれば、布地が破れてしまう。何か方法はないのか。殺虫剤で防戦しながら考えていた城戸は、鼻腔に煙の臭いを感じた。瞳と崎野が「キャンプファイヤーしようよ」と遊んでいた焚き火が、まだくすぶっていたのだ。
火だ。それ以上、考える暇はなかった。城戸はテーブルの下にあったホワイトガソリンの缶を取り出し、中身を焚き火にぶちまけた。一気に火柱が立ち、蚊の集団は闇の中へ退いていったかに見えた。しかし、どれほど効力があるか分からない。殺虫剤もなくなりかけている。
城戸が呆然としていると、テントの中にいた瞳が声を上げた。
「パパ、また音がする。山の上の方から、ぶーんって音が」