【前回の記事を読む】1人で山を歩いていると、ガサガサッと大きな音が…恐怖で足がすくんだ。そこにいたのは、太い牙をもつ野生の…

第二章 土佐─修行の道場 長い長い道とお接待

24日目 2024年10月12日(土)

相変わらず肩に食い込む荷物の重さと疲労困憊の足と戦いつつ、やっと39番の山門に辿り着く。お参りを済ませ、リュックを置いたベンチに戻ると、葉加瀬太郎を白髪にしてサングラスをかけたような外国人のおじさまが、「ユー!! コレあげまーす!」とお寺にはそぐわないテンションでやってくる。

パンパンに膨らんだ遍路用の頭陀袋をゴソゴソまさぐって、チュッパチャプス風の飴ちゃんをくれた。大量の飴ちゃんが入っている。国から持参したらしい。重かっただろうに……とつい重さを心配してしまった。

いただきっぱなしは申し訳ないと、私もリュックをまさぐり、《シャリ蔵わさび味》を進呈。「ワサビ! ワサビ! 僕は日本でわさびを好きになったんだ!」と喜んでいた。

「君はいくつ? 細くて頼りないけど……」とさりげなく失礼なことを聞いてきたので答えると、「やっぱり日本人の年はわからないよ。でも、君はすごいね! 1人で歩いてるなんて! 僕の奥さんはもう嫌だと、1週間前に先に帰ってしまった」と残念そうに語る。面白いおっちゃんだった。

39番を後にし、白髪の葉加瀬太郎にもらった飴ちゃんを食べると、チェリー味で甘酸っぱさが嬉しかった。歩き遍路にはこんな小さな出会いがたくさんある。凄絶な疲労と死ぬかもしれない恐怖がなければ素敵な旅だけど、もしかしたらこの凄絶さがあるから、こんな素敵なことが起こるのかもしれない。

今夜の宿の米屋旅館にチェックインして、荷物だけ置いて買い出しに歩き回る。宿毛は小さな町だが、必要なものは買い集めることができそうだ。荷物を置いてきたので、数日ぶりに町らしい所を身軽に歩いていると、昭和な感じの喫茶店を見つけた。四国はこういう昭和を強く感じる喫茶店がちょこちょこ出てくる。

アイスコーヒーを飲もうと中に入り、歩き遍路で来ていること、イノシシやマムシの話、買い出しで宿から出てきた話なんかで店のママと常連さんと盛り上がって、コーヒー代を払おうとしたら、ママが「今日はいらない。歩き遍路で回りゆうが、お接待させてもらうわ」とお支払いを拒否された。レジのトレイにお金を出すと、きっちり返してくる。

「お接待させてください」とさらに念を押される。見ていた常連さんたちも、「ママの気持ちや! そんなことより、必ず最後まで行って、結願してや! 応援してるでね!」と言ってくれる。

どこまでも四国の人たちは歩き遍路に優しいのだ。《お接待》という文化の深さを身をもって知らされている。今日もまた、感謝という言葉しか頭に浮かばない。人の優しさを知る旅だ。人はこんなにも優しい生き物なんだ。私もこんなふうに人に優しくいたいものだと思う。

こういう時に返すべき言葉が「ありがとうございます」以外何も浮かばない。かっこいい言葉も賢そうな言葉も浮かばない。ただ目頭を熱くして、ペコペコと頭を下げる。素の状態の私は実に、みっともなく、情けなく、頼りなく、ダメダメな人間だ。