(3)初めて国選弁護人として扱った刑事事件(覚せい剤事件)の例
次は、筆者が、弁護士となって初めて国選弁護人として扱った事件である。
文科(司法制度の運用)と理科(科学技術の利用)にかかわるところを含むので、やや詳しくなるが、あげる。
①被告人は、1982(昭和57)年2月9日に警察官に覚せい剤使用を認め、提出した尿中から覚せい剤が検出された。
身柄を拘束されないまま生活していたところ、同年4月4日に至り前記覚せい剤使用の事実で逮捕され、再び提出した尿について鑑定を行い、フェニルメチルアミノプロパンが検出されたとされた。
フェニルメチルアミノプロパンは覚せい剤の成分として、これが検出されると、覚せい剤使用と認められる。しかし、被告人は2月9日より後の覚せい剤の使用を否認した。
1982(昭和57)年4月4日に提出(2回目)した尿の鑑定の経緯・方法は次のとおりである。
a.被告人の尿約70mlから得られた抽出物について薄層クロマトグラムを作成し、
b.呈色反応試験をしたところ、シモン試薬に対して青藍(せいらん)色、ホルマリン硫酸試液に対し赤味の濃い橙色といういずれもフェニルメチルアミノプロパンの存在を示す特異な反応があり、
c.さらに前示抽出物から、トリフルオロ酢酸誘導体を作成し、ガスクロマトグラフィー質量分析(ガスマス法)を行うとフェニルメチルアミノプロパントリフルオロ酢酸誘導体から得た結果に一致した。
それにより、尿中にフェニルメチルアミノプロパンの存在を確認した。これについて、弁護人の筆者は次のように主張した。
筆者は、警視庁科学捜査研究所の鑑定人の証人尋問によって、次のことを聞き出すことに成功した。
すなわち、前記b.の呈色反応試験に用いる試料の反応確認限界(測定必要最少量)は、一般に5マイクログラム(1マイクログラムは1グラムの100万分の1)とされているのに、本件鑑定で用いられた試料はいずれもせいぜい0・5マイクログラム程度であった。
すると、鑑定の信頼性が乏しいことになる。
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