「そんな、なんでそんな……」

遥香がもう死んでいる。もうこの世にはいない。僕にとって認めたくない、嘘みたいな、それでもたしかな事実。それが由紀子さんの言う、僕の予想を超える残酷なのだ。到底受け入れられない。死んでいるなんて、考えたことすらなかった。

由紀子さんが遥香の気持ちをわからないと言ったのは、遥香が死んでいるから。

玄関に置いてある写真に写る、幼少期の遥香は、遥香の子供で、一緒に写る由紀子さんの顔が変わっていないのは、ごく最近撮られたものだから。

遥香の祖母が言った、「そろそろ帰ってきちゃう」というのは、遥香ではなく、遥香の子供を指していた。心優しい彼女は、僕がその事実を知る前に、帰したのだ。すべて納得いった。もっと早く気づくべきだった。

「すみません……。僕、まさか、そんな……こと……」

言葉にならない。僕の中の罪悪感が、これでもかというくらいに、僕の心の弱いところを突く。そして、それにより、僕は僕が生み出した後悔や悔恨の波にあっという間に飲み込まれ、もみくちゃにされる。

本当に全部、僕のせいじゃないか。僕が遥香の身体を傷つけ、殺した。僕が遥香に近づかなければ、遥香は死ぬことはなかった。今もこの家で暮らしていたはずだ。遥香の幸せも、この家族の幸せも、すべて僕が奪ったのだ。

自分への怒りの感情をぶつけるかのように、手を固く握りしめた。どうして僕が生きている? どうして、自分の過去から逃げるような臆病で粗末な人間が生きていて、遥香が死ななくてはならない? 僕の心の弱いところを刺激したもう一人の僕が、今度は人殺しと揶揄する。そして、その言葉が意志を持ったように、凄まじい速さで脳内を駆け巡る。

「優くん」

名前を呼ばれた方を見ると、遥香の祖母がゆっくりとした足取りで近づいてきた。そして、僕の固く握られた拳を手に取ると、ゆっくりと開いていく。開かれた僕の手の平には、爪の痕がくっきりと残っている。相当固く握っていたようで、その痕は簡単には消えてくれない。

「どうか、自分を傷つけないでちょうだい」

遥香の祖母はその爪痕を消すように、僕の手の平を優しく撫でる。

「でも、僕……僕はどうしたらいいか」

喉から声が出しにくい。涙と鼻水でつっかえそうになる。

次回更新は7月21日(火)、11時の予定です。

 

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