【前回の記事を読む】「会いたいとは言っていません。会ってもいいとも言っていません」それでも母親に通された先は、2階ではなく……

第七章

「そうですか」

由紀子さんは扉に手をかけると、ゆっくりと押して、その扉を開いた。

「優くん、おはよう」

僕の記憶の中の遥香が声をかけてくる。黒くてツヤのある短い髪が振り返る時にだけ、風に揺らめく。背が特に低い遥香は、平均をわずかに上回る程度の身長しかない僕のことも、見上げて話していた。そうやって、必ず僕の方を向いてくれるから、僕はいつも遥香の顔を見ることができた。遥香の笑顔を堪能することができた。

僕が部屋に足を踏み入れると、遥香は三年前となんら変わらない笑顔を僕に向けてくれた。僕がずっと見たかった笑顔だ。すごく懐かしくて、大好きな笑顔だ。でも、違う。こうじゃない。僕の視線の先にいる遥香は、ただ笑顔を向けるだけで、微動だにしない。そうして、遥香の笑顔が視界の中でズームアウトされて、僕は息をのんだ。

花、掛軸、線香―。茶色い光沢のある小さな観音開きの箱の中に遥香はいた。それが仏壇であることはすぐにわかった。

「は……え、あ……遥香?」

「まぎれもなく、遥香です」

由紀子さんの声が耳に入るが、聞こえない。理解できない。どういうことだ? なぜ、仏壇の中に遥香がいる? 遥香はどこにいる? なぜ仏壇に写真を飾っている?

「あの……、これって……」

振り返り、廊下に立っている由紀子さんと遥香の祖母に問う。

「そのままよ。遥香は……」

そのまま由紀子さんは泣き崩れた。床にぺたんと尻をつき、これまで見たこともないくらいの声を張り上げて泣いた。遥香の祖母は、しゃがみこみ由紀子さんの背中をさすっている。同じように目に涙を浮かべながら。