【前回の記事を読む】開けっ放しになっていた校門から小学校に入ってきた、菅笠に大きなリュックの場違いな女。校長を見つけるなり…

第二章 土佐─修行の道場 長い長い道とお接待

22日目 2024年10月10日(木)

外に出て自販機で水を買っておこうとした時、財布がないことに気づいた。サーッと血の気が引き、青ざめてお寺に走る。中にはカードも現金もマイナンバーカードも免許証も入っている。手が震え、生きた心地がしない。

財布を出したベンチまで猛ダッシュすると、30分以上経っていたのに、ベンチの上にポツーンと私の財布があった! 弘法大師が財布番をしていてくれたんだと本気で思った。これまでずっと弘法大師に文句を言い、喧嘩を売り、八つ当たりしてきたのに。人目もはばからず「弘法大師様ありがとうー! 感謝します!」と大声で叫んでしまった。

境内にいた人が驚いた顔で私を見る。そんなことも気にならないほどホッとしていた。

そして「変態クソ坊主」と言ったことは平に平に地べたに頭をこすりつけて詫びたい。

疲れきったところに財布を置き忘れるという痛恨のミスで脱力してしまい、境内のベンチでおにぎりを食べた。すると納経所から出てきたタクシー遍路のご夫婦が「おねーさん、歩き遍路かい? この先200mくらい行ったら足湯あるよ」と教えてくれた。

《万次郎足湯》とある。無料とは思えない立派な温泉施設だ。迷わず浸る。足が生き返り、完全復活する。重い荷物で死んだ肩にも浸からせたい気分だが、足湯では無理。足は完全復活したが、バテバテの上半身とボロボロのメンタルというチグハグ感に戸惑いながら歩いていると、サングラスをかけたおじさんとすれ違った。

ちょっと怖い人かなと思った瞬間「お遍路さん、僕な、そこでお接待しゆうがよ、コーヒーでも飲んでいかんね」と誘ってくれた。入り口に《雪寿庵》とある場所で美味しいアイスコーヒーをいただいた。

お接待はまだあり、明日歩きながら食べなさいとビスコを1箱と、値上がりしたばかりの切手を貼った足摺岬の絵葉書を1枚くれた。「誰かに葉書を書いて、ポストに入れたらいいよ」というおしゃれで優しいお接待に、また涙が出た。私はお接待を受けるたびに泣いている。

サングラスのおっちゃんと写真を撮って別れ、宿までのラストスパートをかけていると、道端のお宅に等身大の、カカシと言うか、人形と言うか、頭が馬やら兎やらで、ドジャースの大谷Tシャツや浴衣を着ている……不気味だ。

四国では流行っているのか? 歩いているとたまに現れる。一瞬だがドキッとする。正直、これは怖いから、やめてほしい。疲れきって、ボロボロな時に出くわすと心臓が止まりそうになる。妙に凹む。