神野 何が駄目なんだ?
沢村 そうだとしたら、僕が今までやってきたことは無駄だったってことですよね
神野 目指すところが見えれば、無駄なんてない。今までがあったから今があるわけだ。沢村は、いい声優やオーラのある表現者を感じられる能力がある。自分はスターの才能は無いから職人になろうと思ったのかもしれないが、そもそもスターも職人もない、いい表現者を目指すだけなんだって思えば、それを見分けられる感性はあるわけだから、鍛え方次第なんじゃないか
沢村 あー……僕は何やってたんですかね。遠回りしすぎだ。今からやって間に合うんでしょうか
神野 芸事に間に合わないなんてことはない。そもそも芸の道に近道なんてないんだ
芸の道に近道はない……そんな言葉が、沢村祐太朗という若者に伝わるとも思わなかった。しかしそう言うより他ない。これを勉強すれば、いい成績が取れてプロになれるというものではないのがエンターテインメントを構成する芸事の世界だ。声優業もその一端に他ならないのだから。
沢村祐太朗のような若者が、専門学校・養成所レッスンを飛びだし、芝居にのめり込んでくれる日が来るだろうか。
芝居の楽しさを覚えて、そこから自身の魅力がどんなところにあるのかをわかるようになってくれたら……とは思うが、彼がどこまでこの内容を理解したかもわからないし、仮に理解したとしても納得したとは限らない。事実、違う考え方の人がいるかもしれないのも、また芸の世界だ。
査定の結果、沢村祐太朗は預かりから外れた。ただ、査定会議の中で意見が割れたのもあり、微妙な判断ではあった。しかし、彼には査定に落ちたという事実しか脳裏には残らなかったと後に語っている。
声優業とは資格があるものではない。そして事務所に入ることが資格に近いというものでもない。査定に落ちても落ちなくても、それは一つの通過点でしかないのだが、なかなかそのことは若者には伝わらない。