全てを持っていた平井君 

JR高松駅から200メートルほど歩いたところに、市街へ向かう電車のターミナル駅がある。二両の古い車両で、ガラガラと懐かしい音で市内を抜けていく。駅に向かう狭い歩道の両側にはかつて商店がひしめき合っていた。それらはすっかり整備され、見晴らしのよい広場になっていた。左手には瀬戸内海。フェリー乗り場が見えて、しょっぱい風が鼻を通り抜けた。

高校時代に好きだった女の子に勇気を出して「海を見に行こう」と誘い出したのはその場所だった。遠目にもすっかり様変わりしているようだ。真夏のように照り付ける太陽に、スーツのシャツの袖をめくり、滴る汗を拭った。

電車に乗って、昔通った学校を見に行くことにした。ホテルに荷物を預け、再び電車に乗って一つ先の瓦町駅で降りる。街の中心地域だ。アーケードの続く長さで知られた商店街を横切って、オフィス街のほうに抜けた先に通っていた高校がある。

木の階段の中央が凹んでいて、歩きづらかったのを思い出す。歴史ある校舎の面影はすでになく、近代的なビルに建て替えられていた。中には入れそうにない。仕方なく何枚か写真を撮って、自転車通学をしていたころの自宅をめざす。雨の日には雨合羽が面倒で歩いて通っていたくらいだから、大した距離ではない。

住んでいた五階建ての団地は広い敷地の中に三号棟まであったはずだが、すでに再開発されて私のいた一棟しか残っていなかった。ここから高校とは反対の南側にあった中学校へ通ったのだ。訪ねてみよう。10分ほどで着いたはずだ。

通学路を歩き出してすぐの大通りを左に入ったあたりに、中学三年間のクラスメイト、平井君の家があった。新興住宅地域で、膨れ上がった市立中学校には当時一学年一五クラスもあった。毎年クラス替えがあった中で、三度も同じクラスになるなんてミラクルだった。

彼はすらりとした長身のイケメンで、スポーツも得意だった。おまけに話も面白くかつ親しみやすいクラスの人気者。勉強くらいしか能のなかった地味な私となぜ仲よくしてくれたのか不思議だった。入学して間もない週末、彼は相談したいことがあるといって自宅に招待してくれた。

父親が会社を経営しているらしいとは聞いていた。表札を確かめた目の前にあったのは、広大な敷地とコンクリートの二階建て、樹の生い茂る玄関には大きな門構え。私は立派な木の表札をもう一度確認し、緊張しながらインターホンを押した。

見た目も性格も満点で、スポーツもできてお金持ち。世の中には生まれつきこんなにも恵まれている人がいるのだと初めて知った。平井君がどこかの国のプリンスのように思える。

溜息しか出てこない。

次回更新は7月15日(水)、11時の予定です。

 

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