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私が空を飛ぶ理由~つばめのつばさ~
高松再訪
翌週、定年後の新しい職場で若い上司に呼ばれた。同僚が異動することになり、担当する一社を引き継いでほしいという。
「急で申し訳ないんですけど、来週出張が決まっていて、替わりに行って引き継いでもらえませんか」
「わかりました。出張はどこですか?」
「確か四国出身でしたよね。高松市内の会社なんですけど」
「ああ、高松は高校まで住んでいましたから、地の利もありますよ」
「よかった。じゃあ、よろしくお願いします」
親の実家は愛媛だったが、父親が転勤族で、小学一年生の夏に隣の香川に引っ越した。その後は珍しく父の転勤がなく、高校卒業まで香川県高松市に住むことになった。
本州からの鉄道は瀬戸大橋で四国に渡ったところで、東の香川・高松方面と西の愛媛方面に分岐する。私の上京と同時に父親が定年で親が実家に戻ってしまったので、鉄道で帰省すると実家と反対側の高松に行く機会はめっきり減っていた。訪れるのはいつ以来だろう。
出張は朝から引継ぎを兼ねた打合せとなっていたので、前乗りの夜の飛行機が予約されていた。私は前日の仕事を整理して早目の予約に変更した。久しぶりの高松を見てみたかったのだ。
いつも新幹線から乗り継いで帰っていたので、飛行機で四国に向かうのは初めてだった。途中、眼下に富士山が見えた。飛行機の経路はものすごい高さなのだ。富士山山頂ですら空気が薄くて軽い高山病になる人がいるというのに、この高さを私が飛ぶのは無理だろうなと想像した。スピードもないから、夜のうちに四国を往復するのは無理だろう。
高松空港からバスで市内に向かうと、道の両側に大小いくつものため池が目に飛び込んできた。これぞ香川県だったと思い出した。
梅雨はしっかりあるし、秋にはいくつもの台風が大量の雨を降らせる。それでも面積は四十七都道府県で最も小さく、狭い平野と南側の急峻な山脈しかない。雨が降ってもそのまま海まで流れてしまう。対策としてはためておくくらいしかできず、ただでさえ狭い土地に無数のため池が作られた。
一方で晴天率は全国ベスト3で、夏は暑い上に夕方には悪魔のような「瀬戸の夕凪」が襲う。毎日だ。夕凪とは文字面だけ優雅だけれど、海風と山風が拮抗して無風になる状態のこと。風が“ない”のだから、“襲う”は正しくないかもしれないが、ただでさえじっとり蒸し暑い熱風が全身にまとわりついて離れない。
バスは港に面したターミナルのJR高松駅に向かって、次第に市街地へと入っていく。記憶の中の街並みもあったが、見慣れない風景のほうが多かった。異邦人の気分だ。せっかくなので終点まで行ってみてさらに驚いた。私の知る高松駅の姿はなかった。当時から古かった駅舎は、都会的な吹き抜けのあるビルに様変わりしていたのだ。