でも、一樹とまた見つめ合うことができた。
手を繋ぎ、抱きしめ合うこともできたのだから、私はそれだけで充分だと思えた。
それでも、2週間は特に油断できない状況であること、急変することもまだあり得るということも、医師から詳しく説明されていたはずなのに、なぜだろう。
私は、一樹の顔を見ると、そんなことは全部頭から吹き飛んでいた。
普通に過ごしたあの数日間。
いや、普通に過ごしてしまったあの数日間を、私は悔いているのだろうか。
そして一樹は、長い麻酔の影響なのか、出血による影響なのか、まだ判断できない段階だったけれど、面会を続けていく中、次の日に会うと、前日私と会ったことを覚えていなかった。
その時は、単純に寂しいというのか、何を話したのかさえ覚えていないことがショックだった。
きっと、今日、今、私といるこの時間も会話も、今の一樹の記憶は長くはもたないのだと、明日にはまた忘れているのだと思うと、心の奥がぎゅっと苦しくなった。
なので私は、初日に手作りして持っていったカレンダーに、会った日は印(ニコニコマーク)をつけようと提案し、その提案さえ忘れてしまうかもしれないので、カレンダーのふちに「ニコニコマークが書かれている日は私と会った日だよ」とその場で書いた。
そしてこの日、たまたま昼食の時間と重なり、体勢のせいで昼食が食べにくそうだったので、私が介助したら「まさかこんなに早く薫に介護されるなんてね」と言われた。
「そんなの、遅かれ早かれそうなるんだし、それが少し早くなっただけの話でしょ」と言うと「そうだね」と柔らかい表情で答えた。
そして「また明日も来るからね」と、握っていた一樹の手を離した……。
その日が、最後の日になった。
それが、面会を始めて4日目のことだった。
「夫か妻か、どちらかが先に逝く」泣ける夫婦の物語ピックアップ の次回更新は6月23日(火)、20時の予定です。
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「容体が急変しました…」いっきに血の気が引き、車で病院へと急いだ。帰宅ラッシュの時間と重なった車は思うように進まず…
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明日もし、大切な人を失うとしたら、あなたに後悔はないだろうか?
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