朝から何も食べていないから、夫が売店でおにぎりとペットボトルのお茶を買ってきてくれ、休憩室で食べた。何とかおにぎりを袋から取り出すことはできたが、ペットボトルの蓋が開けられなくなっていて夫に開けてもらった。
「神経内科の診察を受けてください」
慌ただしく看護師さんが呼びに来た。この病院には神経内科医は常駐していない。週に1日だけの診察だ。たまたまその日に外来担当日が当たったなんて、何という偶然だろう。この偶然が私の回復につながるとは、その時は予想していなかった。整形外科とまったく同じ検査をして待合室に座っていたら、看護師さんが急ぎ足で近づいてきた。
「ご紹介の大学病院に今すぐ行ってください。ギランバレーの対応は当病院ではできませんから」
有無を言わせぬ感じだった。慌てて会計を済ませ、車椅子で玄関に向かう私たちの背中に、看護師さんの声が追ってくる。
「家に寄らずに、まっすぐ行ってください」
その声の緊迫感が、私の病気が軽くはないと告げていた。
病院に着いたのが30分後、玄関の外に屈強な男性が待っていて、彼に抱えられて車椅子に乗り移った。夕方の5時を過ぎて、緊急外来の診察室に入った。簡単な問診。
「最近生の鶏肉とか、レバーを食べましたか?」
「下痢はしませんでしたか?」
「予防接種はしましたか?」
「ここのところで、気になる体調の変化はありましたか?」
私には何一つとして、思い当たることはなかった。いや強いて言えば、疲れやすいとは思っていた。それは63歳という年齢を考えると普通といえば普通だと思う。
腱反射のテストで、足が無反応なのを再度確認した。
「診察台に寝てください」
手を寝台に置いた途端、私は医師の椅子と寝台の隙間に倒れ込んだ。前の病院では、自力で寝台に移れていたのに、1時間もたたないうちに私の腕はゴムのように手応えがなくなってしまった。当の本人も慌てたが、先生はさらに驚いていた。
【続きを読む】「まだ60代で、おむつは早いよねぇ」…私の頭の中ではこの言葉が繰り返し聞こえていた。身支度を整えてくれたのは男性の介護士だった。
<市川 友子『ある朝、突然手足が動かなくなった ギランバレー症候群闘病記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より抜粋>
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