【前回の記事を読む】クリエイティビティを高めたいなら知っておきたい、事実を推論するための方法「弁証法」とは?

創造の方法1「調査」
リサーチ~探すクリエイティブ

ホームズの実践

ホームズは、その推理に①演繹法②帰納法も用いたが、シリーズ全編を通じて③仮説形成法を存分に駆使するところにホームズらしさがある。それは徹底的な「観察」に支えられている。直感による安直な判断を排除し、感情を抑制し、「観察」によって収集した情報を、自分自身の記憶や記録に照合することで仮説=推論が想起される。

ホームズによる「アブダクション」で最も印象的なシーンは、シリーズ最初の作品『緋色の研究』で、ホームズ自身が、後に共同生活をすることとなる友人ジョン・H・ワトスンに初めて出会ったシーンだ。

ワトスンを一瞥したホームズは、彼がアフガニスタン帰りであることを即座に見抜いた。医療関係者風の容貌、加えて軍人の雰囲気、すなわち軍医であること、顔は日焼けをしているが手首は白い、つまり熱帯帰りであること、やつれた表情、怪我をしているらしいぎこちない左腕、これほどの苦労を伴う場所と仕事。

これらの「観察」から、ワトスンが、当時の英国による第二次アフガン戦争帰りと洞察したのだった。

また、このような「アブダクション」を支えるのは、ホームズの驚異的な記憶方法「マインドパレス(記憶の宮殿)」、別名「場所法」とも呼ばれる記憶術である。

過去の事件から自身の経験則などのあらゆる情報を、自身の脳内に構築した「パレス」、大きな建築物内の様々な居室にひも付けて記録しておく記憶方法である。仮説形成法の実践は、自分自身の知識教養と経験則のアーカイブ(記録の保管所)とともに成立するものである。