【前回の記事を読む】「普通」の子どもと「コミュ障」の子どもの違い…大抵の子どもはヒトの感情を約1秒で見分けられるが、コミュ障の子どもは……

第1章 悪意のない欺き――困ったちゃんとしてのコミュ障

〇・一~〇・二秒の違いの意味

逆に、ふつうの子どもが笑い顔を見つけ出す場合と、コミュ障の子どもが怒り顔か笑い顔を見つけ出す難易度には、そのような差は生じない。

では、どうして、ふつうの子どもは怒り顔を速く見つけ出すのかというと、そこには厳然とした理由が考えられる。

つまり、身の危険が迫っている可能性が高いから、ということになる。周囲に怒った人物がいることは、自分にとって脅威になるからにほかならない。ひょっとすると危害を加えられるかもしれない。だからこそ、そういう事態には、身体が迅速に反応するのだと、考えられる。

ちなみに、同じ実験を成人で行ってみても、やはり同様の結果が得られることが明らかになってきている。今回、九歳児での実験の知見をあえて紹介したのには、小学生の頃にもうすでに、成人並みに表情の違いに敏感に反応できることを示す意図がある。

また、これよりも幼い子どもでは、課題をどう行うべきかの教示が理解されにくいので、なかなか安定した成績を得るのに苦労するのだけれど、やはり同じ傾向が存在することがわかりつつある。

つまり、こうした感受性は人間にとってほとんど生まれながらに備わった特性であり、それは人間が動物である以上、生存の可能性を高く保つためには今日なお、身にふりかかる危険には敏感でなければならないということだ。いわば生存本能のようなものが、身体に賦与されているからだと推測されるのだ。

その証拠に、成人でも子どもでもそうなのだが、実験後に「怒り顔と笑い顔のどちらの方が発見するのが易しかったか」と尋ねても、とくに「怒り顔の方が楽」といった回答は返ってこない。つまりこの反応は意識に上ることなく行われている。つまり、人間の身体反応であることが、うかがえる。

このように考えてくると、コミュ障の子どもでは、怒り顔を笑い顔と同じ程度にしか見つけ出すことができないことへの理解についての認識を、少し深めていただけるのではないかと思う。