【前回記事を読む】絹の布団に包まれて、柔らかい肌をした遊女と一夜を……だが実際は、おかんと嫁を食わせるだけで精一杯。そんな下心は一生…

川蛍

吉佐は華やかな街並みから、手前の川堤の裾に目をやった。岸辺に生える穏やかな葦(あし) の茂みには、二艘の粗末な小舟が泊まっていていた。その辺りは川がくびれているせいか、流れが溜りになり、背の高い葦が小舟を隠すかのように茂っていた。どちらの小舟にも、茅(かや)を三角に組んで屋根にした、粗末な小屋が乗っていた。

河竹(かわたけ)の女がその日の客を取り、その茅葺屋根の下で客と体を重ねて、今宵の一時を過ごしているのだろうか? 茅葺屋根の荒い目の隙間から、内の行燈(あんどん)の光がかすかに漏れていた。その赤い光は、秘め事をしている女が洩らす吐息のように艶めかしく、か細く見えた。

しばらくすると一艘の小舟の艫(とも)に黒い人影が立った。昇り始めた月の光の下では、その姿はぼんやりとしていたが、竹のように細くしなやかな姿は女人のように見えた。

女人は着物の裾(すそ)を整えると、長い竹竿を手にして川底を押した。小舟はゆっくりと葦の茂る川辺から離れた。女人は竿を櫓(ろ)に持ち替えると、小舟は穏やかな流れのなかを川上の船着き場に向かった。月は小舟をほんのりと照らし、小舟と人影はゆっくりと去っていった。

小舟とすれ違うかのように、船宿の並ぶ船着き場からは賑やかに明かりを灯した大きな屋形船が次々と川中に出てきた。二十人以上も乗れるのだろうか、船の上には櫓(やぐら)が組まれ、鼓や笛の音が聞こえてきた。船の舳先(へさき)では松明(たいまつ)が焚かれ、屋形の軒下にはぼんぼりが一列にぶら下がっていた。

それは遊郭の遊女たちが、客人をもてなす舟逍遥(ふなしょうよう)のようだった。月夜に川面に舟を繰り出し、涼しい川風に打たれながら、何人もの遊女に囲まれて酒を酌み交わしながら音楽と踊りで風雅をたしなむ、お金持ちの旦那衆の道楽の極みだった。灯りのともった屋形船は、月の光が輝く川面でゆらりゆらりと揺れていた。

時たま風に乗った笛や太鼓の音が聞こえ、屋形船の障子には踊を舞う黒い人影も見えた。その夢のような世界や楽しげに響く音色を聞いていると、吉佐の心もなんとなく明るく楽しくなってきた。

そんな音色は村祭りの時にしか聞くことはなかった。月を愛でながら舟遊びをするこの景色を、嫁の駒に話してやったらさぞ喜ぶことだろうと吉佐は思った。多分駒も一度見たいと言うと思った。

[さあ、もう行くとするか。もう少しで今夜の木賃宿(きちんやど)に着く。そしたらうどんでもすすって寝るか。明朝、三国(みくに)の渡しを渡れば船場(せんば)の茶問屋もすぐだ]