「あの人に身寄りはいないはずよ。だって一人息子さんのご家族がもういないんですもの」
わたしが眉根を寄せていると、おばさんが事のあらましを教えてくれた。それによると、お孫さんを含めた息子さんご一家は、一年ほど前に全員が亡くなっているとのことだ。
なんでも、帰省でこの家に向かう途中、高速道路で事故に遭遇したらしい。運転していたのは息子さんで、後部座席にいたお孫さんまでが助からなかったというから、ひどい事故だったのだろう。
おばさんの話が本当なら水口さんは、もういない孫の帰りを待っていることになる。現実を受け入れられずに息子一家の里帰りを待つ老人。人間嫌いなのに人恋しい老人。わたしは急に、彼が可哀そうになってきた。
ぽつねんと光る星が好き。あの言葉にも深い思いがあるのだろう。
彼は、頭ではすでに現実を受け入れていて、星を見ることで事実から目を背けているのかもしれない。だから、フォーなんとかって名前の星がマンションで隠されて、見えなくなるのを恐れている。
「それであなた、こちらとはどんなご関係?」
思案に耽っていると、斜(はす)に見上げる目で聞かれた。井戸端会議のネタにでもするつもりだろう。
日暮れの裏木戸から独居老人宅に出入りする若い女、しかも子供を二人連れているとなれば、想像力が乏しくても面白おかしい話はいくつも浮かんでくる。
「あら、喋り過ぎたかしらね」
返答に困っているわたしを見て気分を害したと取ったのか、おばさんは取り繕うような仕草で回覧板のチラシをめくった。
次回更新は6月26日(金)、11時の予定です。
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