「ほら、背の高いマンションって日照権の問題とか、あるでしょ。建てないでくれって、署名を集めてお願いしたの。署名って言ったって、ご近所さんだけなんだけどね」
「そ、そうですか」
「裁判なんて大事にはならずに、階数を少し減らすってことで折り合いがつきそうなんだけどね。ここの水口さんが、どうしても建てるなってごねちゃって」
もうすぐ見られなくなる、と言っていたのは、南に建つマンションでフォーなんとかが隠される、ということだったのだ。
意味不明だったピースが一つずつ形になってきて、ぼんやりだけどパズルの全体像が浮かんできた。でも、星が隠されるのって、ごねるほどの大問題なのだろうか。
「もう決まったことですか」
「そうなの。どこもかしこもマンションブームでしょ。ベッドタウンにこれだけの土地だもの、誰もほっとかないわ」
おばさんは空き地に目をやって腰に手を当てた。
「この辺は田舎だから、建ってるのは平屋かせいぜい二階建てでしょ。ほら、上階から見下ろされるって、気分悪いじゃない? でもね、時代の流れには逆らえないっていうか」
マンションの五階に住むわたしには耳の痛い話だけれど、水口さんの不満はそういうことじゃないんだろう。
「あのおじいさんは、星が見えなくなるのが不満みたいなことを言ってました」
「星? 水口さんが?」
「はい」
「そんな趣味、あったかしら」
「お孫さんと見るのが楽しみだとか」
おばさんは、「あー」という顔をして、何度も頷く。
「やっぱり、まだ癒えてなかったのね」
「え?」