【前回の記事を読む】「このフィルム…何かがおかしい…」戦時中に撮られたはずの映像には、当時ではあり得ない"あるもの"が映っていて…
第一章
六
少しすると田苗は一冊のファイルを脇に抱え、汗をかいた麦茶のコップと角砂糖を小さな盆に載せて戻ってきた。
「男手(おとこで)で恐縮です。で、角砂糖、おいくつ入れますか?」
「あっ、ありがとうございます! でも、これ麦茶ですよね? ならば、角砂糖は結構です」
「いや、入れましょうよ。入れたほうが絶対に美味しいですよ」
なおも田苗は、角砂糖をクロカリのコップに入れようとしたが、クロカリは咄嗟に、コップを引っ込めた。田苗は、首を傾げた。
「麦茶に砂糖入れない人なんて、わたくし、初めてです。そんな変わった人、まるで初めてです」
田苗は、なおも解せない顔のまま、角砂糖を自らのコップに沈めた。
「さて、お問い合わせの西瓜の件ですが……」
田苗は、急に真顔になって言った。
「結論を言うと、ズ、ズバリ、あなたのご指摘の通りです。、ちい坊、いや、秋元千穂さんという、町立図書館の司書に当たってもらったんですが、彼女、とびきりの史料を見つけてくれましてね。やはり、戦時中に庶民が西瓜を食すなど絶対にない、と」
田苗はすると、手元の冊子の付箋紙を手繰った。
「……あっ、これです。『戦時農産物・作物制限』という、当時の国の政策資料です」