【前回の記事を読む】わき目も振らず、12時間ぶっ通しで作業。すると突然、左目から血が零れ頬を伝った。「ヤバい、これって脳溢血…」
第一章
五
次に現れたのは〝ツナギ〟を着た二十歳を超えたあたりの若い灯台守だった。
彼は鋼鉄の扉を開けて灯台の入り口へとカメラを招き入れた。
灯台の頂に続く巻貝のような螺旋階段は、先細りの灯台の形状にしたがうように上方にいくほど狭くなっていった。最後のドアを開けると、そこには何層も重なるフレネルレンズがあり、回転の動力となる真下に吊り下げられた分銅につながっていた。
やがて、カメラは太平洋を望む大展望(パノラマ)が広がる頂上部へ。時刻は午後四時を過ぎ、やがて太陽は、ゆっくりと西の大海に傾き始めた。
灯台守が、制御盤の点灯スイッチを入れると、アセチレンライトに光がゆっくりと灯り、レンズは巻き上げられた分銅を動力に、規則正しい音を立てて三百六十度、ゆっくりと回り始める。
年長の灯台長は、点灯し始めた一部始終を確認すると、階下へ下りて煙草をふかし、カメラを灯台の裏庭の畑へと案内する。
そこには、リヤカーに、所狭しと積まれたラグビーボールのような楕円形状の三浦西瓜がズラリと並んでいた。
彼は、そのうちの一番大きい西瓜を選ぶと、巧みに蔕(へた)を切って、それをカメラに向かって自慢げに見せつけ、モンペ姿の妻と思しき女に手渡した。
一同に、振る舞われる西瓜。舌鼓を打って、頬張る若い灯台守。
満面の笑顔……。
やがてZ埼灯台に夜の帳が下り、六分五十八秒で画面は、ゆっくりホワイトアウト。
「終」の印……。
「へえ、よくできている、まるで映画みたいだ……」
フィルムをひとしきり見終わったクロカリは、その映像の完成度の高さに驚いた。
だが、その時クロカリは、その映像の一部に、根拠はないが、何とも言えない〝違和感〟を覚えることとなる。
「い、いや、ちょっと待て……」と動きを止めてその映像を凝視しながら「このフィルム……どこかがヘンだ、な、何かがおかしい……」と、声にならない声でつぶやく。
やがて、クロカリの額から、一筋の冷や汗が流れ落ちた。
注目したのは〝シークエンス26〟。年長の灯台長が満面の笑みを浮かべて自慢げにカメラに西瓜を披露し、それを全員で頬張る最後部のシーンだった。
「そ、そんな! そんな莫迦(ばか)な……」